学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 [PR]

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 審査の様子(白谷琢磨さん/東京芸術大学大学院)
10月24日、アーバネットコーポレーションが主催する立体アートコンペ「アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション 2019」(以下、AAC2019)の最終審査会が行われた。登竜門でも4月の作品募集開始時に「学生なら応募するしかない!立体アートコンペ『AAC』6つの魅力」として紹介したように、学生限定で最優秀作はマンションに恒久展示されるほか、最終審査に進んだ3名へ制作補助金を支給するなど若手作家の育成を重視している点が特徴だ。今回からは高校生からの応募も可とし、可能性をより広げる方向に舵を切っている。「登竜門」編集部は、この最終審査会を取材した。

『トラディショナルモダン』が舞台の最終審査会

入賞者は7月11日に発表。70点の応募作品から、広島市立大学大学院・博士課程後期で総合造形芸術専攻に所属する番原耕一郎さん『Neighbor』、東京芸術大学大学院でデザイン専攻の五十嵐亮太さん『半分の阿吽』、同じく東京芸術大学大学院で彫刻を専攻する白谷琢磨さん『the city』が選ばれた。3人は補助金を活用、AAC事務局から構造面の助言も受けながら3カ月間の制作を行い、最終審査会へと臨んだ。

舞台は、下町の風景が今も残る東京・台東区の単身~DINKS向け新築マンション、アジールコート台東根岸。『トラディショナルモダン』をテーマに、『やたら格子』など伝統的な和の要素を現代的にアレンジしたインテリアだ。作品が置かれるエントランスは、幅6.6m×高さ1.95m×奥行50cmの細長く浅い形状。この空間をいかに解釈し、テーマに沿った作品を作りあげたかが判断基準となった。審査員には建築や日本美術、現代アートを専門とするプロが並び、完成度はもちろん、私的空間と公的空間の交差点であるマンションエントランスに恒久展示するのにふさわしいか、内装との調和や耐久性、メンテナンス性なども含めた幅広い視点で審査を行った。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会風景

審査員は、建築家であり東京都江戸東京博物館館長の藤森照信さん(写真中央)、小山登美夫ギャラリー代表取締役社長の小山登美夫さん(写真右手前)、公益財団法人永青文庫副館長の橋本麻里さん(写真左)。そしてアーバネットコーポレーション社長・服部信治さん(写真左奥)。背後の壁面には『やたら格子』がデザインされている。

空想の世界とマンション空間を繋ぎ広げる-番原耕一郎『Neighbor』

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 番原耕一郎さん『Neighbor』作品画像

黄の大理石、緑のエメラルドパール、赤のインド砂岩と3色の石でレリーフを作り、それぞれに真鍮のノブをつけた白砂岩のドアを埋め込んだ。サイズや形、色のまったく違うモチーフが連なることで、白黒の空間に彩りやリズム感を添える。

審査会トップバッター、番原さんの作品は、素材も色も異なる石彫刻の3連作。一日の始まりと終わりに通るエントランスで「作品を通じて、空想に耽って遊ぶ時間を持ってほしい」、白黒を基調とした内装に対し「黄や緑、赤のモチーフで彩りを加えたい」と語った番原さん。各モチーフの中央の小さなドアを媒介に、別の世界や時間を感じさせて空間に広がりをつくる、和室における山水画のような効果も狙ったという。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 番原耕一郎さん(広島市立大学大学院)『Neighbor』審査風景

作品に近づき、作品の取付や質感などを細部までしっかりと審査する、藤森審査員(中央)、橋本審査員(右)。素材に重量があるため、重さに耐える取付金具の制作や軽く仕上げる工夫などに苦心したという。

審査員から和風の内装と作品の調和に関する説明を求められ「どんな空間にもなじむよう抽象的モチーフにした」と回答した番原さん。またモチーフの数に対する質問では、人が集まる空間になぞらえた“三者三様”という多様性と数のマッチングを説き、審査員を納得させる場面もあった。また審査中、番原さんから審査員にタイトル再考の相談がされるなど、最後まで作品の考察を深めようとする姿勢が印象的だった。

空間の制約を超えて浮遊感を生む、半立体のギミック-五十嵐亮太『半分の阿吽』

2番手は、5年ぶりにデザイン専攻から選ばれた五十嵐さん。エントランスの守り神として魔除けの意味を持つ『阿吽』をモチーフに、口を開けた様子と閉じた様子の2種類をデザインして、組み合わせた作品。禍々しさや強さを思わせる造形がポイントだ。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 五十嵐亮太さん(東京芸術大学大学院)『半分の阿吽』作品画像

白黒に塗った半割りパーツをミラーに貼り、鏡に映すと一つの立体になる仕組み。背景の鏡には白黒の内装や緑も映り込むため独特な印象。

「立体より平面作品のほうが受け入れられやすい社会の風潮を払拭し、有機的な立体の魅力を伝えたくて作品を制作している。半分の形とミラーで立体を構成する手法により、日本の狭い建築空間でも浮遊感を感じさせる立体造形が可能になる」と、学部時代より制作しているミラーを利用した表現手法が、今回のように面が広く奥行きの浅いエントランスにぴったりだと考えたと語った。

審査員からは、パーツ形状が設置スペース床の装飾と揃って統一感が出ていることへの驚きや、ミラーをよりよく活かす提案などがあった。パーツについては耐久性やメンテナンス性の確認のほか、応募書類にあったイメージ画と実際の形状の違いについての指摘も。さらに、自作の魅力を「斜めから見た時の滑らかさ」とする五十嵐さんに対し、審査員からは経験則に基づいて「凹凸を深くして暴れさせたほうが、より魅力が増すのでは」との意見があり、作家の個性と見栄えの落としどころなど、今後の制作活動で意識すべき点へのヒントも垣間見られた。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 五十嵐亮太さん(東京芸術大学大学院)『半分の阿吽』審査風景

パーツは3Dツールで形を起こし、発泡スチロールで作ったモックに樹脂を吹き付けているので、軽くてメンテナンス性にも富む。ただし個数が135個あり、少しの調整でも135倍の作業になるため、制作中はスケジュール管理に苦労したという。一つ一つのパーツを確認する橋本審査員と、作品全体のカーブを見る小山審査員。

命と都市を重ねた表現がメタボリズムに通じる-白谷琢磨『the city』

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 白谷琢磨さん(東京芸術大学大学院)『the city』作品画像

建材のスタイロフォームを乾漆(麻布を漆ではり合わせて素地とし、上塗りをして仕上げる技法)で包み、螺鈿を貼って仕上げた。白谷さんは乾漆を磨くとブロンズ像の質感に近く見えることに惹かれ、ほぼ独学で乾漆技法を習得。工芸ではなく彫刻作品として漆をどう取り入れるか、常に考えてきたという。

最後に登場した白谷さんは、伝統技法を使いつつ水面に映る上下対称の都市をモチーフとして、伝統的かつ現代的な相反性を見出し『トラディショナルモダン』を表現。学部時代から命に興味を持って人物や植物を扱ってきたが、都市にも命同様に新陳代謝の要素を見出したという。都市の暗闇に浮かぶ光と細胞の誕生時に発される光を螺鈿で、また、建物がひしめく都市と樹木の古い細胞が肥大する様子を、中央が膨らみ裏側に空気が回る造形として表現した。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査会 白谷琢磨さん(東京芸術大学大学院)『the city』至近距離から見た作品画像

正面だけでなく、横から見ても重厚感あるシルエットで圧倒される。漆は2回塗りの下地状態に留め、漆が剥げた古い仏像のような質感にしている。

審査員からは、独創的な漆の使い方に注目が集まった。「乾漆には古い仏像のイメージがあり、最初からそこをめざした」という解説に「埃を被ったような質感が最初から感じられる」、「阿修羅像のような生々しい造形ができる手法」、「このビッグサイズで漆を使うのは、なかなかない」と盛り上がる一幕も。また、白谷さん自身は気づかなかったという『メタボリズム(※)』的要素の指摘やボリューム感と位置の関係性など、アート以外の分野で活躍する審査員からの指摘で、普段の勉強や制作現場にはなかった発見が多くあったようだ。

※メタボリズム…1960年代に黒川紀章ら建築家たちが中心となった建築運動。社会や人口の変化に合わせて有機的に成長する都市や建築を提唱した。「メタボリズム」は生物学用語で「新陳代謝」を意味する。

可能性に満ちた学生作家たちに、エールを送った表彰式

三者三様のプレゼンを経て、最優秀賞は全会一致で白谷琢磨さんの「the city」に決定した。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査 表彰式写真

写真前列は審査員(左から服部社長、藤森さん、橋本さん、小山さん)、二列目左から白谷さん、番原さん、五十嵐さん、後列は入選者8名。

表彰式では、藤森審査委員長が「舞台が現代建築なため新しい技法で挑む作家が多い中、本作は奈良時代から続く乾漆技法。マンション空間に対して意外性のある技法だが、テーマや力強い材質感、現代都市が水面に写り上下反転しているイメージを乾漆で表現した点が大変優れていた。この技法に、彫刻学科の学生が独学で挑んだ点もすばらしい」と講評を述べた。また、橋本さんは白谷さんのほか番原さんへの助言や五十嵐さんへの激励、小山さんは「審査がとても面白かった」と3人の制作に対する努力を労った。

表彰式後に行われた懇親会で、最優秀賞の白谷さんは「今までもコンセプトは考えて取り組んできましたが、テーマに基づいた企画書を作り込んで提案した上で選ばれる、そんな経験はまだありませんでした。今回はその力を磨きたくて応募したところもあります。今回経験できた一連の制作プロセスを、今後は企画段階で人に理解してもらったり、人に伝えたりする上での力にできたらと思います」と笑顔でコメントした。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査 懇親会写真 白谷琢磨さん

晴れやかな顔で審査員と談笑する白谷さん。「乾漆は素材代が非常に高価で、制作費を補助してもらえるAACでなければ、これほどのサイズには取り組めなかったと思います。貴重な経験をさせていただきました」とも語る。

番原さんは「石の重さを吸収する工夫や位置決めに対するアドバイスなど、AAC事務局には手厚いサポートをいただきました。今回のことで、特に素材加工関連の知識不足を実感した一方、台座への設置だけでなく壁付けや天井など、作品配置の可能性に気付けたのは発見でした」とこの3カ月を振り返った。また五十嵐さんは「僕はデザイン専攻ですが、作家自らアートだと定義し『これがいい』と言える作品がアートだと思っています。これまで平面から立体まで分野を問わずコンペに挑戦してきましたが、今回の立体制作の経験も他の分野にも活かし、異分野の人々の考え方を理解し話す力にできたらと思います」と今後の展望を語った。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査 懇親会写真 番原耕一郎さん

丁寧に今回の制作を振り返り、技法について詳細に語ってくれた番原さん。誠実に作品と向き合い、自分を高め可能性を探り続ける。

学生アーティストの登竜門 立体アートコンペ「AAC」 2019最終審査 懇親会写真 五十嵐亮太さん

今年はポスターコンペにも出品し、入賞したという五十嵐さん。平面と立体、デザインとアートと、幅広い領域へ挑戦し経験を積み重ねる姿勢は、今後の大きな飛躍を予感させる。

学生かつ立体アート限定の希有なコンペとして、能力ある作家を多数見出し輩出してきたAAC。今回その仲間入りをした白谷さん、番原さん、五十嵐さんも、今後大きく羽ばたいていくことだろう。

立体アートコンペAACは、学生にとっては手厚い支援を受けながら力試しができる貴重な場であり、私たちにとっては、未来への可能性を秘めた若い作家を知ることができる機会。来年はついに20周年を迎える。ぜひ来年も情報をチェックしていただきたい。

文:木村早苗 写真:アーバネットコーポレーション提供 編集:猪瀬香織(JDN)


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(2019/12/3 「登竜門」編集部)

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