イメージが呼ぶ方へ体を動かす。『FACE2019』グランプリ 庄司朝美インタビュー [PR]
新進画家の登竜門となるべく「年齢・所属を問わず、真に力がある作品」を募集する、東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館の公募コンクール『FACE』。現在、7回目となる『FACE2019』の入選展と、第8回の募集が行われている。
『FACE2019』では870名の作家から応募があり、下は8歳から上は74歳まで、入選作品71点が決定した。グランプリは画家・庄司朝美さんの《18.10.23》。アクリル板の裏側に直接ドローイングされた、神秘的な雰囲気の油彩だ。第7回の表彰式に臨む庄司さんに、作品が生まれる過程や、自身にとっての制作の意味を伺った。
構図だけ最初に決めて、自由に描いた大作
― 受賞おめでとうございます。今改めて受賞作品を見て、どんな気持ちですか?
ありがとうございます。絵が大きいなと思いました。描いているときは自分の体のサイズ、ストロークのサイズで認識しています。自分の体と離れてから改めて見ると、とても大きく見えますね。
― 今回、FACEへ応募した理由を教えてください。
普段、公募展やコンペにはあまり積極的に出品はしていないんですが、作品を見ていただきたい方が審査員をされているときに応募しています。今回はさらに、いつも作品を見てくださっているギャラリーのオーナーに勧められて応募しました。
― 公募コンクールの出品ということで、何か意識したことや、普段の制作との違いはありましたか?
構図だけは最初に決めました。縦構図で人物が中心にいれば、他にもたくさんの絵が並ぶ中で際立って見えるだろうと。個展のときはもっと自由に、用意せずに制作します。
以前は、そういう(公募を意識して先に構図を決めるような)描き方には疑問があってコンクールに出さなかったんです。でも今は、その描き方が鑑賞者を引き込む装置になるなら、それは絵画として有効だと思うようになりました。
降りてきたイメージに引っ張られるままに。覚醒状態を保つことが制作
― 受賞作品は非常に強いストロークで描かれていて、圧倒されました。どのように制作されたのでしょうか?
変な言い方かもしれませんが、私の制作スタイルはイタコやシャーマンのようにイメージが降りてくる感じなんです。普通、画家の方って下絵を描いて「こういう絵(完成形)が見たい」と思って制作に取り組むかと思うんです。でも私の場合は、降りてきたイメージに引っ張られるままに体を反応させて、いかにイメージが呼ぶ方向に体が動くか。“覚醒”した状態を保つことが制作です。
覚醒し物理的な制約から解き放たれた状態でイメージを広げ、それを体に戻す……つまり具体的な絵の具を触ったり筆を握ったりという身体的な作業に戻す。この循環の中で絵が生まれてきているかなと。
私は何度も探りながら描くタイプではなくて、居合抜きのように一気に描き出すので、画面に迷いの種のようなものが生まれると、そこから進めなくなっちゃうんです。アクリル板だと「ちょっと違うな」と思ったら消せるので、違うと思ったら一気に戻って、また別の道に行く。バッと拭き取ると、一瞬でバッと空間が出てくる。そのスピード感でどんどんイメージを作っていく感じです。
作品は画家としての人生の“断面”
― 画家になろうと思ったきっかけはありますか?
子どもの頃から絵を描いたり、自分の手で何かを作り出すことが好きでした。そんな私を見て大人たちは「将来は芸術家になる子だね」なんて冗談交じりに言い合っていました。私はその言葉を真に受けて、「そうか、私は芸術家になるのか」と。知らず知らずのうちに道を決めていたんだと思います。美大で絵を描く技術や姿勢を獲得し、作家になっていきました。
― 庄司さんの絵はアクリル板に直接描くスタイルですが、この作風にいたった経緯は?
数年前、当時は紙にドローイングして糸や竹ひごなどでコラージュしていたんですが、展覧会前なのに絵が描けなくなったことがあります。今の方法に変えたのは、そのスランプの時期なんです。
ある時、作品の額についていた保護用のアクリル板が目に入って。このままアクリル板に描いてしまえば、額に合わせて紙を切る必要がないなと思いつきました。実際描き始めると、絵具が生き物のように動いて、ものすごく自由にイメージが生まれてきました。
― タイトルには制作日をつけていると伺いました。これはどんな意味があるのでしょうか?
私にとって作品は、これまで描いてきて、これからも描き続けていく、画家としての人生の“断面”のようなものだと考えているからなんです。一つ一つの作品に特定の物語を込めて描くわけではなく、生きていること描くことが同列になっていて。作品を仕上げることより、描いている状態のほうが大事。これからもそういうふうに生きられたらと思っています。
― 最後に、『FACE2020』への応募を考えてらっしゃる皆さんに、メッセージをお願いします。
このような規模で多くの人に作品を見ていただける機会は、FACE展ならでは。制作は孤独なものですが、たくさんの人に見てもらうことで新たな気付きを得られることもあります。絵を描いている人は、ぜひ挑戦していただきたいです。
FACE展2019 損保ジャパン日本興亜美術賞展 概要
●会期
2019年2月23日(土)~3月30日(土)10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで、月曜休館
●会場
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館(東京都新宿区西新宿1-26-1 損保ジャパン日本興亜本社ビル42階)
●観覧料
600円/高校生以下無料
※学生は学生証・生徒手帳を提示のこと
※障害者手帳、被爆者健康手帳をご提示の方は無料(詳細は公式ホームページにて確認のこと)
FACE2020 損保ジャパン日本興亜美術賞 募集概要
●締切
2019年10月20日(日)
●賞
グランプリ(1点) 賞金300万円
優秀賞(3点) 賞金50万円
他賞あり
●募集内容
未発表の平面作品
募集要項(登竜門)
https://compe.japandesign.ne.jp/face-sompo-japan-art-2019/
公式ホームページ
https://www.sjnk-museum.org/
取材・編集・文:猪瀬香織(JDN) 撮影:木澤淳一郎