受賞者インタビュー
2018/09/26 10:00

ひとつではない「東京」を描く-ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2018 Cinematic Tokyo 部門 優秀賞 洞内広樹・田中雄之 [PR]

ひとつではない「東京」を描く-ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2018 Cinematic Tokyo 部門 優秀賞 洞内広樹・田中雄之
世界130以上の国と地域から集まった1万本を超える短編映画から、選りすぐりの約250作品を一挙上映する米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下 SSFF & ASIA)」。2019年に向けた作品募集が始まっている。

2018年の受賞作の中で異彩を放っていたのが、「Cinematic Tokyo」部門で優秀賞・東京都知事賞を受賞した『東京彗星』だ。同部門は2017年に設立され、「東京」を題材にして様々な「東京」の魅力を発信するショートフィルムを募集している。第1回は、3分半のミュージックビデオアート『東京音℃』が受賞していた。

『東京彗星』は、第1回受賞作とは全く異なる切り口のSFストーリーだ。ショートフィルムの時間枠25分をほぼフルに使って、「1年後に彗星が衝突する東京」を舞台に兄弟の絆を描いた。登竜門では、監督でCMディレクターの洞内広樹さんと映画プロデューサーの田中雄之さんに、制作の経緯や同部門出品の魅力をうかがった。

壮大なショートフィルムを実現した、映画スカラシップとCMディレクションの力

── 『東京彗星』を制作したきっかけを教えてください。

洞内:田中さんが運営する、短編映画制作のスカラシッププロジェクト「MOON CINEMA PROJECT」に企画を応募したのがきっかけです。そこで優勝し、制作費500万円を獲得できました。

洞内広樹(ほらない ひろき) 映画監督・映像ディレクター

洞内広樹(ほらない ひろき)映画監督・映像ディレクター:1985年生まれ。中学2年生より映画を撮り始め、法政大学卒業後は電通テック(現・電通クリエーティブX)にてディレクターに。TVCMやミュージックビデオのディレクターとして活躍する。B’zとジェームズ・キャメロン作品に大きな影響を受けた。

── ショートフィルムの制作費としては十分な額のように思います。素晴らしいスカラシップですね!

田中:ありがとうございます。たしかに日本の短編映画の制作費としては多いかもしれません。しかし、海外では潤沢な予算で短編映画を作ることも多いと思います。実はそこがプロジェクトの狙いで、潤沢な資金をもってして、海外に負けないクオリティの短編映画を世に送り出したかったんです。もちろん、単純に制作費があればよい映画が撮れるわけではありませんが、少なくとも同じ土俵に立てるのではないかと思って立ち上げました。

田中雄之(たなか たけし) フィルムメーカー

田中雄之(たなか たけし)フィルムメーカー:1982年生まれ。広告代理店でCMディレクターを務めたのち、現コトプロダクションに所属。自身も映画を撮ると同時に、プロデューサー、宮崎大学講師としても活躍。

── 短編らしからぬ、壮大なストーリーに驚きました。

洞内:僕はもともと、スケールの大きな映画が大好きなんです。ショートフィルムってついコンパクトになりがちですが、そればかりでもつまらない。たしかに普通なら2時間越えのところを30分以下に圧縮するのは簡単ではありませんが、CMという十数秒の中ですべてを理解してもらう経験を積んできたので、自信はありました。学生時代から30分映画をよく撮っていましたし。逆に、まだ長編映画を撮ったことがないんです(笑)。

田中:1秒あたりの予算で考えると、CMって実はハリウッド映画並みの予算なんです。時間と予算を有効に使い切る能力を鍛えてきたCMディレクターだから、作れる映画があるのかもしれないとは思いました。

クオリティには自信がある。でも、東京の危うさを描いた本作の受賞は意外だった

── SSFF & ASIA「Cinematic Tokyo」部門には、なぜ応募されたのでしょうか。

田中:MOON CINEMA PROJECTは、ただ制作費を提供するだけじゃなく、その後の映画祭やコンテストの出品までサポートしています。国内外を問わずたくさん応募しましたが、昨年からSSFF & ASIAにこの部門ができたと知り、東京が舞台の『東京彗星』はうってつけだと思って応募しました。実はこの部門を知ったのは、登竜門のインタビュー記事なんですよ。

── それは嬉しいです!受賞する自信はありましたか。

洞内:応募作品の中で際立つとは思いましたが、選ばれるとは思いませんでした。だって、東京の魅力を伝えるどころか、彗星という災害を通して東京の危うさを表現しちゃっていますからね。僕だったら選ばない(笑)。

田中:正直、東京都知事から怒られると思っていました(笑)。ただ、作品のクオリティには自信がありました。だから、授賞式に参加する時は、選ばれてもいいよう洞内さんに「ちゃんとジャケットを着て来てくださいね」って言いました。

SSFF & ASIA Cinematic Tokyo部門授賞式の様子

SSFF & ASIA 2018 Cinematic Tokyo部門授賞式の様子。右は小池百合子東京都知事

── 『東京彗星』の受賞により、この部門やテーマ「東京」に対する、皆の認識が変わったと思います。

洞内:華やかで楽しいことばかりじゃない部分も、東京の持つ顔だと思います。それに、もともと東京ってひとつの画で表現できないんですよね。例えば渋谷のスクランブル交差点に持つイメージって、東京全体ではなく渋谷に限定されるでしょう。それぞれの街が独立した魅力を持っていて、「東京」はとても複合的です。世界的に観ても、こんな街ないじゃないですか。だから『東京彗星』のタイトルバックをどこにするかは、相当悩みました。

田中:『東京彗星』の受賞で、この部門の懐の深さが示されたと思います。映画祭によっては受賞作の傾向がはっきりしているものもありますが、この部門は昨年の第1回と今年の第2回で、まったく方向性の違う作品が受賞しています。どんな東京を表してもいい。どんな表し方でもチャンスがあると思いました。

SSFF & ASIAは大都市・東京で多くの人に作品を見てもらえるチャンス

ひとつではない「東京」を描く-ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2018 Cinematic Tokyo 部門 優秀賞 洞内広樹・田中雄之

── 2019年の作品募集が始まっています。「Cinematic Tokyo」部門への応募を考えている方へ、メッセージをお願いします。

洞内:SSFF & ASIAは、上映環境が素晴らしいと思います。東京という大都市で、これだけの規模で多くの人に観てもらえるのは、とても光栄でうれしいことです。受賞すれば周りの目が変わりますが、クリエイターなら、参加するだけでもきっと楽しめるはずです。

田中:僕も、作る側としてやりがいを感じられる映画祭だと思います。次回は僕も「Cinematic Tokyo」部門に応募するかもしれません!

ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019【Cinematic Tokyo部門】募集概要

締切:
2019年1月31日 (木)

賞:
グランプリ 賞金100万円

募集内容:
「東京」を題材にしたショートフィルム
※イマジネーションや架空の東京も可
※詳細は募集要項を確認

募集要項(登竜門)
https://compe.japandesign.ne.jp/shortshort-cinematic-tokyo-2019/

公式ホームページ
http://www.shortshorts.org/2019_call_for_entry/tokyo.html

文:安岡将文 撮影:杉田拡彰 編集:猪瀬香織(JDN)

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