若手作家を発掘・応援する「Tokyo Midtown Award」2016年アートコンペグランプリ受賞者-後藤 宙 インタビュー1 / 2
アーティストとしての存在を確立できたグランプリ
-昨年、「Tokyo Midtown Award」アートコンペでグランプリを受賞されました。受賞前後でのご自身や周囲などに何か変化は感じられましたか?
後藤 宙(以下、後藤):ギャラリーや学内での展示など、それまでもさまざまな活動はしてきたのですが、何を持って作家のデビューなのか、美術のシーンにいるのかがあまりわからなかったんです。自分の軸がなかったというか。それがこのグランプリをいただいたことで、自分のイメージが外に現れるきっかけになった気がします。「あの作品の人だよね」と言ってもらえる名刺的なものができたというか。
-アーティストの道を選ばれたのはいつ頃?
後藤:大学3年の冬頃でしょうか。大学院ではアートに集中できる学部に進み、徐々に…という感じです。ただ遡ると、最初のきっかけは大学1年にあったんです。作品をたくさんの人に見てもらいたいと「リキテックス アートプライズ」に出品したのですが、要素を盛り込みすぎてしまって。なのにグランプリは自分と同世代の学生で、それがものすごく悔しかったんです。ただ彼のブースや個展を見ると「ああこういうのが芸術に真摯に取り組むことなんだ」と思い知らされ、目を開かされた感じがしました。そこで別のコンペには、雑味なしの1ネタを意識したら賞もいただけ、そこでこの感覚に繋げていけばいいと。それで最初の方向性が見えたんですよね。
-なるほど。普段はどのようなテーマを作品に込めて制作されていますか?
後藤:大きく言うと、時代や地域を超える、人の普遍的な感性に響くものです。素材や法則を介して深く印象を残す作品というか。僕は、数学的な単位や法則、幾何学などは、人類や環境に変化が起きて世界の形が変わっても残る共通言語だと捉えています。その普遍的な法則を、僕のオリジナルの形で作品として表したいんです。制作にかかる恣意性と普遍性は一見対極にあるようですが、その両方を統合することで、見る人により深く刺さる作品になると思っています。
-受賞作もそうした思考プロセスに沿って制作されたのですか。
後藤:はい。グランプリを取った鉄を使ったシリーズはほぼそうです。実は、アワードに出品する半年前に制作した大学院の卒業制作展用の制作プロセスが元になっています。8作品のシリーズもので、それぞれ黄金比や幾何学、トラス構造などのテーマがあったのですが、制作中にさまざまなイメージが蓄積されてきたので、統合して作品にしたいと考えたのです。また、密度がある物をつくりたかったこともあります。普遍的な感覚はたいていシンプルな形で表されがちだし、あまり外れなければそれっぽいものにもなりやすいし、近道のように思えます。でもそれに対して自分なりの幅を持った形も考えないと、そのバランスが真の正解かどうかを判断できないんじゃないかなと。自らの恣意性のコントロールができないと正しい審美眼も身につかないので、その訓練のためにも密度があるものにしたかったのです。僕の中では明確なモチーフを持たない純粋抽象と位置づけています。
-たくさんのコンペに出品されていますが、Tokyo Midtown Awardへの出品は初めてでしたか?
後藤:はい。2010年の公開2次審査を見学に来ていたので、その存在は知っていました。ただ年齢制限までにまだあるからと先のばしにしていたら、大学院の教授から出品してみてはと後押しがあり出品を決めました。
-公共空間での展示に対し、何か意識された点はありますか。
後藤:僕自身、その存在を身体で受け止めるというか、体感するスケール感の作品が好きなんです。小さい作品は視覚で捉えますが、パブリックアートのようなサイズだと身体で感じられますよね。実は卒業制作ではその部分がかなり消化不良でした。大きい作品をつくりたい欲がすごかったので、空間に広がりがあるほうがむしろよかったんです。受賞作は約2.4m四方なので見上げる必要があるし、ハシゴがないと上部のディテールも見えないと思います。
-その空間が六本木という東京の真ん中にあるパブリックスペースで、作品を街行く人々が観るという状況はいかがですか。
後藤:それが僕は好きなんですよ。僕の作品はそこまで高度な読解力が必要なわけではなく、視覚や体感でアクセスできるので、むしろ多くの人に見てもらった方がいいのかな、と。自分でも作品を理解しきれていない感覚もあるので、知覚の幅を広げてくれるのであれば、誰でもどうぞ、という感じです。もし社会に影響を受けるような作品、例えば文脈やコンセプトの説明が必要な作品の場合は、見る人がじっくりとコミュニケーションできる空間がいいと思いますけどね。
-出品の上で、また制作の上で苦労した点はありましたか。
後藤:物理的な部分ですね。外注プロセスが必要な大きな鉄の作品に初めて挑戦したので、いつもお願いする職人さんだけど本当に形にできるのか? という不安がありました。CADで設計図をつくっていただくのに、壁と支柱の位置を描くのに高さ、平面、距離の3点だけ指定するようなやり取りなので、完成形がさっぱり見えなかったんです。人の手とCAD両方を駆使してやっと形になるのに、そこからの組み立ても自分でやるからまた大変だし…みたいな(苦笑)。
-では、よかった点は。
後藤:テーマが自由なことでしょうか。僕のようにテーマがある人は好きにつくれるほうが、元気に取り組めると思います。
-本アワードの魅力ってなんだと思いますか。
後藤:すべてが魅力的だと思います、発表できる機会、審査員、賞金、グランプリ副賞のハワイ。一通り揃っているし、制作以外にかかる労力、例えば出品料や運搬の保険などにかかるストレスがないのが素晴らしいと思います。制作の労力が必要なのは普通ですが、それ以外の負荷が多い場合もありますからね。そう考えると、Tokyo Midtown Awardはアーティストが考える「こうあってほしい」形のコンペだと思います。