「第16回 学生限定・立体アートコンペ AAC 2016」最終審査会レポート&受賞者インタビュー2 / 2 [PR]

「第16回 学生限定・立体アートコンペ AAC 2016」最終審査会レポート&受賞者インタビュー
最終審査会のあとは会場をかえて、入選を受賞した方も集まり表彰式と懇談会が行われた。表彰式では審査員からの挨拶、受賞者のスピーチなど緊張感がある場面が多かったが、懇談会では審査員と直接話し、意見交換が行われ、終始和やかな雰囲気だった。受賞者の方同士は、同世代だからこそ打ち解けあうまでが早く、これまで作ってきた作品のポートフォリオを見せ合ったりしながら、わきあいあいとお互いの活動について報告しあっていた。今回、最優秀賞を受賞された古川千夏さん、優秀賞を受賞された中尾俊祐さんと堀田光彦さんの3名にインタビューを行い、作品について語ってもらった。

最優秀賞 古川千夏さん

AACコンペに応募したきっかけを教えてください
登竜門のページを見て、コンペの存在は昨年から認知していました。AACの募集を見て、エントランスの雰囲気に自分の作品が合いそうで、あと審査員の方々も魅力的だと思って、応募しました。

最優秀賞:古川千夏(広島市立大学 大学院 芸術学研究科 造形芸術専攻 造形計画研究 金属造形研究室)/「GEMME」

最優秀賞:古川千夏(広島市立大学 大学院 芸術学研究科 造形芸術専攻 造形計画研究 金属造形研究室)/「GEMME」

これまでの活動や作品について教えてください
今作のような表現は以前から研究、制作をしていました。新しい七宝の表現をテーマに有線七宝を中心に、七宝という素材で様々な表現をずっと模索しています。去年まではグループ展をしたり、大学院に入ってから作った作品はすべて公募展に出品しています。

作品の制作エピソードを教えてください
入賞を通知されてすぐに制作を開始しました。七宝は大きな作品を作るのはなかなか難しく、今まで掌に収まる作品ばかりだったので、こんなにも大きな作品を作るのは初めての挑戦でした。最初から時間がかかることはわかっていたので、計画通り制作していました。七宝は工程が多く、焼成が全部合わせて約400回、ひたすら一人で制作というのが地味に大変でした。

懇談会でも審査員と直接話すことができ、意見を取り入れられるのがAACの魅力の一つ

懇談会でも審査員と直接話すことができ、意見を取り入れられるのがAACの魅力の一つ

設置場所がマンションのエントランスということで注意した点はありましたか
公共の場にふさわしい、毎日見ても飽きない作品になるように気を付けました。実際マンションの見学をして、スペースを見て人の動線をイメージしたり、壁の素材や色を見て、雰囲気がつかめたことは大事なことだったと思います。また、エントランスは、時間や天気によって光の当たり方や空気感が変わり、様々な人が様々な感情を持ってこの作品の前を通る場所であると思ったので、それを意識して制作しました。

受賞者の先輩として、来年以降AACに応募したいと思っている学生にアドバイスがあればお願いします
学生だけのコンペで制作補助金も出て、学生にとってはとても条件のいいコンペだと思うのでおすすめです。

優秀賞 中尾俊祐さん

AACコンペに応募したきっかけを教えてください
きっかけは卒業論文の予備実験として研究室の先生が薦めてくださったことです。デザインの初期段階において抽象的なキーワードや概念から造形物に昇華するプロセスでの問題点はどんなことがあるのかを観察調査したくて応募しました。

これまでの活動や作品について教えてください
アート系のものより新しい使い方の提案をするものが多いかもしれません。空間インテリアデザインのコンペなどに応募してました。

優秀賞:中尾俊祐(和歌山大学 システム工学部 デザイン情報学科4年)/「Corona」

優秀賞:中尾俊祐(和歌山大学 システム工学部 デザイン情報学科4年)/「Corona」

作品の制作エピソードを教えてください
制作時間自体は短かったのですが、作り始めるまでが長かったです。初めての制作だったので、作り方を考えることから、設置方法まで全て考えることが初めての経験でした。金属製作所にお手伝いしていただきながらの制作だったのですが、制作法の決定や表面仕上げの選定、金額の交渉に1カ月ほどかかっていました。

設置場所がマンションのエントランスということで注意した点はありましたか
応募時には正直、住民の方が触れたりするということは考えていませんでした。でも、制作する際に安全確保についてかなり気を付けなければならないことに気づきました。ステンレスの薄さで人が手を切らないか、とがったところで目をついてしまわないか、災害や家事が起こった時どうするかという点はとても迷いました。

入選を受賞した学生も加わり、お互いの学生生活や活動について受賞者同士でわきあいあいと意見交換

入選を受賞した学生も加わり、お互いの学生生活や活動について受賞者同士でわきあいあいと意見交換

受賞者の先輩として、来年以降AACに応募したいと思っている学生にアドバイスがあればお願いします
こうすれば賞が獲得できるという方法があればむしろアドバイスが欲しいくらいです(笑)。今回のコンペは参加から提案から制作まで私自身一人で出来たわけではなく同じ研究室の方、AACの方、金属製作所の方、多くのサポートや周りの人たちのアドバイスに支えられてここまで至りました。なので、自分の思うこと考えることをしっかり相手に伝え相談することが重要だと思います。

優秀賞 堀田光彦さん

AACコンペに応募したきっかけを教えてください
昨年もAACに応募したのですが、入選という結果で悔しい思いをしたからです。

これまでの活動や作品について教えてください
武蔵野美術大学の彫刻科でブロンズという素材と出会い、鋳造による作品制作を始めました。鋳造でしか生み出せない作品作りを念頭に制作をしています。

優秀賞:堀田光彦(東京藝術大学 大学院 美術研究科工芸専攻 鋳金研究分野 修士課程1年)/「朝の輝き」

優秀賞:堀田光彦(東京藝術大学 大学院 美術研究科工芸専攻 鋳金研究分野 修士課程1年)/「朝の輝き」

作品の制作エピソードを教えてください
今回、東京芸術大学として参加した茨城県北芸術祭(2016.9.17-2016.11.20)の作品制作期間がAACの作品制作期間とかぶってしまい、結局設置が終わってからAACの作品を作り始めたので本当に時間がなかったですね。大学で時間いっぱいに制作し帰宅してからも寝ずに作業をして、朝4時ごろに力尽きて床で寝て朝7時にはまた大学に行くという生活が結構続きました。作品を作るということはとても大変ですが、それと同じくらい幸せな時間をもたらしてくれます。なので精神的には大丈夫だったのですが、体力的にはなかなか辛かったです。

主催会社の服部社長と作品について話す堀田さ

主催会社である株式会社アーバネットコーポレーションの服部社長と作品について話す堀田さん

設置場所がマンションのエントランスということで注意した点はありましたか
住居者の目に毎日入るということは、強く意識してプランニングし、作品がマンションのエントランスの空間とどのように関わり合うかは常に想像しながら作りました。また作品の重さや形など安全面には気を使いました。パブリックアートは安全面に気を使いすぎてつまらない形になっては本末転倒だとは思うのですが、やはり行き交う人の事は考えてしまいますね。

受賞者の先輩として、来年以降AACに応募したいと思っている学生にアドバイスがあればお願いします
公共空間に設置するという事を念頭に置く事が大切だと思います。私は来年も出すつもりなので、会場でお会いできるのを楽しみにしています!

今回、最終審査会、表彰式、懇談会に参加しインタビューを行い、それぞれの作品に対する熱い想いを間近で感じられた1日だった。インタビューに答えてくれた3名の受賞者は「AAC2016」で獲得した賞金を、作品の制作や今後のデザイン活動に使うとのこと。将来の活躍にも注目だ。

●審査員総評
審査員長 秋元雄史
今回、最終審査に残った3名の方の実際の作品を拝見しました。三人三様で、使う素材も、制作のアプローチも違っていて、バラエティーに富んでいました。古川さんは、七宝らしい大変繊細な仕事をなさっており、一方でスケール感をもって制作をしていただいて、マンションのエントランスという多くの人たちが行きかうパブリックなスペースにマッチした形に仕上げていただいた作品です。中尾さんは、素材や技法から入っていない、理論や理屈から制作に入っている面白さがあり、そこで改めて素材や技法と出会い、それをどう自分のものにしていくかといった取り組みだったように思います。堀田さんの作品は、伝統的な造形技法であるブロンズの鋳造で制作されています。ブロンズ彫刻の中で改めて装飾性やデザイン性に着目した面白い作品でした。

審査員 望月かおる
この度応募された皆さま、大変お疲れ様でした。今日はコンペに参加された方々の作品やたくさんのポートフォリオを拝見させていただき、ものづくりをしたいという強い欲求と、多くの時間とエネルギーを作品制作に注ぎ込んでいる熱気が大変伝わってきました。近年は、アーティストを目指す若者が、大学を卒業後も作家活動を続けていくことが難しい状況になっていると思います。そんな中、このようなコンペがあるということは、1つの希望のように思いました。今日のような機会を糧に、これからもあきらめずに、どうか活動を続け、アーティストの道を進んでください。

審査員 内田真由美
このコンペは、第一次審査を通過した3名は主催者からの支援を得て、作品を制作し、そして実際に展示されるマンションのエントランスに設置して、プレゼンテーションを行い、最優秀賞を決めるという、主催者側にとってはすごく手間や費用のかかるコンペですが、それを16年も続けていらっしゃいます。今回で3回目の審査員を務めさせていただき、改めて感じたのが、全国の美大、芸大、専門の学生だけではなく、今回の中尾さんがそうであったように、幅広いジャンルの分野の学生がこのコンペに、チャレンジ精神を持って応募されているということを、実感いたしました。どうぞこれからも、継続していってください。

アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション(AAC)
http://www.urbanet.jp/tabid/182/Default.aspx

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