【CSデザイン賞受賞者インタビュー】あらかじめ間違っておくことで、建築は自由になる2 / 2 [PR]
カッティングシートという素材を“読み替える”ことで、広がる可能性
-「ハイツYの修理」でカッティングシートを使うことを考えたのはなぜでしょうか?
木村:合板のよさは何なのかと考えたときに、経年変化で色が変わり、時間を内包できることだと思いました。そこに更新性をかけあわせるなら、透明で、かつ素材を貼ったりはがせたりするといいなと。あと、内部が暗いという問題もあったので、部屋の奥まで光を届けるために光沢のある素材を探しました。見つけたのは、加藤くんだよね?
加藤:打ち合わせでは軽い感じで言葉が飛び交って、こんなのどう? と話し合っていくうちにポロッと出てきたのがこの素材でした。
-これまでに「IROMIZU」を使われたことがあったんですか?
加藤:以前、勤めていた事務所でガラスに使ったことがあって、バリエーションも多くて重ね貼りができるいい材料だと思っていました。
木村:加藤くんは元々インテリアの仕事をよくやっていたというのもあって、僕たちとは重なる部分も多いけど、違う領域の素材もよく知っているんです。ただ、問題はそもそも誰が貼るのかという話でした。こういう変なことをするとそこが問題になってけっこう手が止まるんですけど、今回は伊藤くんが「面白いっすね、僕やります」って、彼はちょっとおっちょこちょいなので言うんですよ(笑)。
加藤:実際に貼ってくれたのはクロス屋さんです。クロス工事と設備以外はほぼ自分たちで工事しましたが。白い壁のクロス貼り替えと合板にカッティングシートを貼るのとをお願いしました。最後に「こんな物件ははじめてです、ありがとうございます!」と言われました(笑)。
-「IROMIZU」を使ってみて、どのようなところに素材の魅力を感じましたか?
木村:「IROMIZU」を使うと、素材の表情を生かすということを、コンマ何ミリの単位でできる。それはこの物件を通して発見できたことで、ものの見方をかなり変えられました。
-ちなみにCSデザイン賞に応募したきっかけとグランプリを受賞した感想も教えてください
加藤:元々いた事務所や、僕がかつて事務所をシェアしていたグラフィックデザインの事務所が以前入賞していた関係で賞の存在を知っていて、「ハイツYの修理」もせっかくだから出したいと思いました。
木村:でも、受賞のご連絡をいただいたとき、反応はみんな笑ってしまう。みたいな感じでしたね。
加藤:場違い感があるかなと(笑)。
-「ハイツYの修理」は、今回のCSデザイン賞の応募作の中では異色で、審査の過程で話題を集めたそうです。最初はどこに使っているのかわからなくて、ベニヤ全面に貼っているとわかってから、これは面白いことが起きていると
木村:僕たちは「素材そもそもの使い方ではない使い方をする」というのをよくやります。この場合も平滑な面に貼って向こう側が透過し、そこに色がついて重ねられるという属性だけを取り出すと下地がガラスである必要はなくて、合板でも、石やメラミンに貼ってもいいはずです。いろんな材料が、そんなふうに読み替えできるんです。
使う人の自由度を高める建築
-“読み替え”というのはすごいおもしろいキーワードだと思います。ほかにどんな“読み替え”た事例がありますか?
木村:僕たちが京都で設計を手がけたファッションデザイナーのための住居兼アトリエ「house T/salon T」では、25mmのパイプに使うビニールハウスの留め具を合板に挟んで、ドアハンドルにしています。25mmを厚みに読み替えれば、何にでも使えます。またトイレの天窓にはアップルパイを焼く皿を使っています。回転しても落ちなくて強度のあるガラス素材ならば、何でもよかったからです。またカーテンレールのかわりに竹を使って電設用のサドルという材で留めたり、服をつくる人が試作に使うシーチングという安い材料をカーテンや壁に使ったりしています。
-ひとつの物件の中であれこれと材料を読み替えてますね(笑)。
木村:僕たちが身の回りレベルからあらかじめ間違っておくと、お施主さんも間違った使い方をしてくれます。壁に穴をあけたら怒られる、へんな家具を置いたら叱られるみたいな緊張感で暮らすのではなく、建築家も間違うんだから自由にしていい、みたいな状況ですね。実際に設計した家に行くと、クライアントさんが「こんなのつくりました」と見せてくれたりします。
-お施主さんもつくることに参加できるわけですね。
木村:いまプロダクトデザイナーの住宅、事務所、ショップ兼カフェという複合的な機能を持つ建物が京都で進行中なのですが、そこも変で面白いですよ。
松本:クライアントさんも設計に近い方なので、「トイレの鍵は僕やります」と提案してくれて、面白いものができたりしています。
木村:普通は図面を確認のために見せることはあってもCADデータをクライアントさんに渡すことはないのですが、この場合はデータを渡して図面を描いてもらうということが起きています。厳密さを求める設計者ならばデザインが壊れると感じるところだと思いますが、1回チームでするといろんなことを許容できるようになります。するといろんなものが見えて、よくわからない世界に行けて面白いんです。
聞き手:瀬尾陽(JDN編集部) 構成・文=平塚桂(ぽむ企画) 人物撮影:衣笠奈津美
CSデザイン賞
http://www.cs-designaward.jp/index.html
木村松本建築設計事務所
http://www.kmrmtmt.com/
いとうともひさ
http://itoutomohisa.jp/
fabricscape
http://www.fabricscape.jp/
加藤正基
http://masakikato.jp/
※公開準備中
2016年10月18日(火)~2017年1月20日(金)まで、CSデザインセンターにて開催
http://nakagawa.co.jp/news/161012_ex_csdc.html
出典:JDN