「デザイナーの成長、成功とは?」エイトブランディングデザイン西澤明洋氏インタビュー1 / 2

「デザイナーの成長、成功とは?」エイトブランディングデザイン西澤明洋氏インタビュー
プレミアムクラフトビール「COEDO」、キリンビバレッジ「生茶」、山形の老舗じゅうたんメーカー「山形緞通」、iFデザインアワードでゴールドを受賞した「アーツ前橋」などのブランディングで知られるエイトブランディングデザイン代表の西澤明洋氏。学生時代は建築を専攻しながらも、デザインマネジメントを研究。一方では、「登竜門」を参考にデザインコンペに応募することでプロダクトやグラフィックの実績を作ってきたという。そのユニークなキャリアの積み上げ方、デザインについての思想や仕事に向かう姿勢について聞いた。

建築からスタートしたキャリア

エイトブランディングデザインは、ブランディングのみを専門にしているデザイン会社です。ブランディングという言葉は普及していますが、広告制作会社やデザイン会社が広告やデザインをメインにしながら、ブランディングも手がけていることが多いかもしれません。でも僕らは、ブランディングのみを追求しています。1つの企業に入り込んでいって一緒にブランド開発していくようなスタンスです。僕らなりの新しいやり方を啓蒙していきたいですし、実際に、いま世の中に受け入れられつつあります。

僕のキャリアは、建築からスタートしました。京都工芸繊維大学で建築を専攻していたんです。その在学中に偶然、デザイン経営工学科が新設されました。デザインマネジメントを体系的に研究する学科が作られたのは、実は僕の母校が初めてだったんです。僕自身、デザインマネジメントはおもしろそうだと感じ始めていたタイミングだったので、大学院時代はその研究にどっぷり浸かる日々になりました。論文を書いたり、実際にデザインマネジメントしたり、デザイン活動もする、というような。

西澤 明洋 ブランディングデザイナー 1976年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。著書に『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)など。

西澤 明洋 ブランディングデザイナー
1976年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行っている。「フォーカスRPCD®」という独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。著書に『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)など。

建築からスタートしたキャリアでしたので、在学中の作品はほぼ全部、建築。でも就職活動では建築業界ではなく、デザインマネジメントができる企業を探しました。当時からデザインマネジメントに特化した会社も、機能として取り入れている企業も少ない時代でした。僕はデザインマネジメントの中でもブランディングを専門に研究していました。実社会でブランディングに携われるところとなると、たとえば経営コンサルタント会社になるのかもしれません。コンサルティングではデザインしないのでちょっと違います。それなら一度、デザインマネジメントを経営の中に取り入れている企業で、インハウスデザイナーとして経験を積むのが良いのではないか、と考えた訳です。それならメーカーだ、と。

ちょうど就職氷河期の底にあたる世代でしたが、縁あって東芝に入社できました。2年間勤め、仕事は充実していましたが、ブランディングはさせてもらえない。当たり前ですよね。インハウスデザイナーがブランディングに関わる立場になれるのは、最低でも10年、あるいは20年くらいの経験がなければその役職に就けません。それなら自分で始めてみよう、と独立したのが2004年です。独立後は仲間たちとデザイン会社を2年間くらい一緒にやっていました。その後、やっぱりブランディングだけに特化したいと考えて、ひとりでエイトブランディングデザインを立ち上げました。

建築、プロダクト、グラフィックの異なる領域を渡り歩く

僕のスキルは、建築、プロダクト、グラフィック。この3つの領域を渡り歩いているんですけれども、結果的にとても良い効果につながってきたと思います。ブランディングでは、グラフィックデザインの領域が多いのですが、そうはいってもグラフィックのスキルだけだと足りません。お客様のブランドを作り上げていこうとするとき、ロゴやコミュニケーションツールだけでなく、店舗を構えることになったり、商品開発するケースが多いです。外部のプロダクトデザイナーや建築家と協業する場合もあれば、僕らだけで完結してやることもあり、建築やプロダクトのスキルはいま、めちゃくちゃ役に立っています。

ブランディングデザインは、表層的にはグラフィックの要素が目立ちますが、思考体系としては建築に近いものです。建物を建てるとき、いきなり建物の形を考えるのではなくて、まず敷地。それに対して隣地の環境があったり、風土があったり、コストの制約があったり、法律の制約があったり…。諸条件の中で、1つの構造躯体を選択して、それに対してライフスタイルを考慮し、そのあとに初めて意匠を考える、という進め方をします。ブランディングデザインってこれにかなり似ているんですよ。企業経営の情報の整理の仕方、開発コンセプトの立て方、デザインの進行のさせ方が。建築を勉強してきた僕は、ブランディングデザインの思考術も学んでいたことになります。手技のスキルは当然、必要ですよ。デザイナーの素質として必要ですが、それ以前の考え方を身につけられたのが良かったのかなと思っています。

西澤氏の手がけられた仕事

西澤氏の手がけた仕事

次ページ:コンペでデザイナーとしての本質を磨く