結果発表
2015/07/28 15:00

第8回 未来エレベーターコンテスト2014《学生限定》

受賞作品数:5点
主催:東芝エレベータ株式会社

最優秀賞

Vertical Hydrogen City
加々美理沙(東京大学大学院)
Vertical Hydrogen City
作品概要
2035年、ドイツは日本と同様に高齢化社会問題を抱えており、一方で、自動運転可能な燃料電池自動車も大幅に普及しているだろう。それらの点を踏まえ、そのドイツ・ヘッセン州最大の都市で、ヨーロッパの交通の要(かなめ)であるフランクフルトに、燃料電池自動車のための水素ステーションの拠点になり、高齢者にも配慮した垂直都市「Vertical Hydrogen City」を提案する。
同心円状のフロアの外側は外部交通システムとリンクしており、外から入った燃料電池自動車は、地下にある水素ステーションで充電できるだけでなく、そのままエレベーターによって各フロア(商業・オフィス・住居等)まで垂直移動が可能となっている。交通渋滞を避けるため、上昇と下降で対になっているエレベーターは、20階と40階にある水平回転装置で通行整理される。また、車体の移動ができるレール部分は鋼材でできており、建物の構造材としての働きも備えている。将来的にはこの「Vertical Hydrogen City」をモデルケースとして、水素ステーションネットワークを活かした異なるタイプの建築が、世界各地に誕生することが予測される。

優秀賞

擁壁を紡いだまち バリアフリーな擁壁エレベーターによる斜面住宅地の未来
原田爽一朗(明治大学大学院)
擁壁を紡いだまち バリアフリーな擁壁エレベーターによる斜面住宅地の未来
作品概要
長崎市東山手町は、急峻な坂と、まちの随所にデザイン的にも整った石擁壁があることで有名な地域である。しかし、坂が織りなすこの美しい風景に住む人々の数は年々減少傾向にあり、まちでの暮らしは空洞化しつつある。古い斜面住宅には多くの高齢者が住んでおり、若年層は利便性を求めて中心市街地へと離散している。まちなかには、現在でも斜行エレベーターが設けられているが、景観を害しているばかりか、短期的な更新を繰り返すたびに大規模な工事が必要であった。それに代わる新たな大地の回廊として提案するのが、世紀を超えて住み継ぐための擁壁エレベーターである。
すでにまちなかに数多くある擁壁の内部の土を取り除いたうえで、エレベーターを設置する。こうすることで高低差による弊害をなくし、まちの各所にバリアフリーな縦の動線をつくっていく。また、広い土地には、敷地内に緩やかなジグザグの斜路スロープをつくり、車椅子でも昇降可能な道筋を確保する。さらに、擁壁に囲まれたエレベーターとスロープは、災害時に公園までの動線として活用できる。擁壁エレベーターによって、東山手町は高齢化社会に対応した斜面住宅のまちとして生まれ変わるだろう。

審査員賞

BuoyanCity
桑原宏介(東京工業大学大学院)
BuoyanCity
作品概要
佐賀県太良町は、有明海に面し、干潮と満潮の潮位差が日本一のまちである。潮位差は大きい時で5m以上にもなり、この潮力から得られる力は絶大である。一方で、水道管の老朽化問題も深刻化しつつある。そこで、将来訪れる大規模な水道管の交換時期に合わせ、水道管および配水管の水圧を利用した土地の昇降システムが考えられる。
「BuoyanCity」では、AとBの2つのシステムが用意されている。Aは水道管の水圧を利用した移動システムで、水道管内に水道管とほぼ同径の円盤を配置し、移動体と円盤を紐でつなぎ、水圧によって移動体を動かす。Bは有明海の潮力を利用した昇降システムで、浮きと歯付き棒からなるシステムを昇降したい部分の下に配置し、潮位差を利用して上下させる。2つを複合的に用いることで、山間部に多くあるミカン畑を移動させて、冬の日照時間を最大限に利用できるようにしたり、冬季霜対策として、霜が降りる朝方まで畑を地面に陥没させておくことができる。あるいは、豪雨時に水田を傾けて配水量を調節することも可能だ。各家の基礎部にシステムを配置し、台風などの災害時に地面を下げればシェルターとして機能するなど、農業以外の利用範囲も広い。
SNOW FLOWER Snow Recovery Machine And Energy Conversion System
小俣森生(多摩美術大学)、神戸隆英(東京理科大学)、瀬戸 識(早稲田大学)
SNOW FLOWER Snow Recovery Machine And Energy Conversion System
作品概要
東北地方の豪雪地帯では、雪による事故や交通機能・日常生活への障害が多数発生し、住民は雪おろしなどの除雪作業を強いられているのが現状である。2035年、人口減少と高齢化の影響を受け、これらの問題は一層深刻化していることが予想される。モデル地域として想定したのは、東北のなかで最も人口減少と高齢化が進む秋田県北秋田市である。ここに雪対策のソリューションとして、雪を回収して移動させるエレベーター「SNOW FLOWER」を設置する。
建築物の上部に置かれた巨大なルーフ状の構造体「SNOW FLOWER」は、堅牢な骨格と使用温度範囲が極めて高いポリカーボネートのパネルで構成されており、高さの調節、面積の変更も可能である。この装置は雪を遮蔽する役割と同時に、回収する機能も備えている。回収された雪はスターリングエンジンによってエネルギーに変換され、公共設備や一般家庭の電気として供給される。スターリングエンジンは温度差を利用した熱機関であり、熱効率も高く、排ガスもクリーンである。また、保管室の雪は夏場まで長期保存され、パイプを利用して建築内の冷房にも活用される。
THE MOVING SKIN A BETTER LIFESTYLE, IN A BETTER WORLD
丸山鉄朗・高良大樹・LIVERT LIM TJUN IKE・星野良太・東海林健太・加藤 舞(東京工芸大学)
THE MOVING SKIN A BETTER LIFESTYLE, IN A BETTER WORLD
作品概要
現代の日本の都市空間は、土地が少ないため、決して満足のできるものではなく、建物は上へ上へと伸びるしかない。そして、それをつないでいるのがエレベーターである。しかし、従来のエレベーターは、移動機能が優先されているため閉鎖的であり、空間とのつながりを持っていない。エレベーターを空間構成のひとつに組み込むことはできないだろうか。そこから発想されたのが、建物の壁を自由に動かせる「moving skin」システムである。
厚みを持った壁が移動するこのシステムでは、壁が上がることで地上に風をもたらし、視界が開け、地域住民の憩いの場や子どもの遊び場を提供する。また、壁が下がることで地上がプライベート空間となり、2階部分にオープンスペースをつくることができる。例えば、住宅に用いられる場合は、日常空間の持つ表情に変化がもたらされ、駅で用いられる場合は、時間帯に応じてキオスクを自由に移動できる。ブティックなら、営業時間中は2階店舗のショーケースとして使い、営業時間外には1階に下げてシャッター代わりに使える。このように「moving skin」システムによって、都市は動く空間を獲得し、人々はそこで自ら空間を生み出していくだろう。