結果発表
2025/12/09 10:00

工芸都市高岡2025クラフトコンペティション

主催:工芸都市高岡クラフトコンペ実行委員会

応募作品数:1371点
受賞作品数:5点(入選を除く)

グランプリ

練上ball rainbow・prism
佐藤愛子
練上ball rainbow・prism
作品コメント
鮮やかな球体は青空に浮かぶ虹を、淡いグラデーションの球体は曇りガラスに射す光が生む虹を映しています。同じ虹色でも異なる景色をそっと閉じ込め、手のひらにおさまる小さなオブジェに仕立てました。用途は自由。テーブルに置けば、移ろう日々にふと光を落とし、小さな彩りをそっと添えてくれます。
審査コメント(一部抜粋)
2025年…モノもコトも溢れている時代に、クラフトが社会(人)にできることは何でしょうか? 今回は、その答えを探しながら、審査に挑みました。食器、家具、オブジェなど人の暮らしを、センス良く満足させるものは、もはや何処でも求めることができます。ではいったい私たち作り手が、手を動かし、時間とエネルギーを費やし何故作るのでしょうか? 例えば市井で簡単に手に入るモノと、いったい何が違うのでしょうか? 何かが優れていなくては、クラフトは必要ではなくなってしまうでしょう。その何かを私は「愛」という仮説を立てています。人に対して熱意や気持ちを込めて対峙していくこと、この大賞作品からは、そんな健やかさを感じました。作家自身も心から楽しんで作ったのではないでしょうか? そのせいか、手に取る者をも楽しませてくれ、人を癒す力があります。(辻 和美)

アワード

blossom
鈴木大樹
blossom
作品コメント
現代では使われることが少なくなった「木桶」の技術を用いて器を制作しました。木桶の新しいカタチを日々模索している中、木の温かみをより感じることができるよう、やわらかい雰囲気を目指し8枚の花弁をイメージした形にしました。ハレの卓を彩る一助になれば幸いです。
審査コメント
上部は8枚の花弁が柔らかな膨らみを持ち、輪花の造形としての佇まいが無条件で美しい。桶造りの普通の構造は、竹製か金属製のタガを上下に嵌めることによって成立する器物です。本作は下部にのみ金属のタガを嵌めて完結しています。これは画期的な造形法であり、本作のように上部を複雑な形状にすることができ、今までの桶造りの概念を変えたことは、研究の成果であり、高く評価します。ことに杉の柾目の木目は優しく、何を入れても映える造形です。
私は今回の審査を拝命してから、一次審査から、実作の審査まで既視感のないもの、新しい技法、新たな用途を見出そうとしている作品に注目をしてきました。伝統を守り、丁寧に作り上げたものの持つ存在感より、今までにない別の視点で作り上げた作品に強く惹かれました。特に本作は、クラフトという言葉の解釈の本質を大きく広げて、次世代へ、海外へと展開しうる秀作だと思います。(三田村有純)
Rainbow Structure Cabinet
鈴木康洋
Rainbow Structure Cabinet
作品コメント
弊社が開発した「Rainbow Structure」(特許出願中)は、異なる2種類の模様を重ねることで美しい色彩のグラデーションを生み出す、独自構造を応用したキャビネットです。引き出すことでグラデーションが動き、使うことで変化が生まれるインタラクティブなデザインです。引き出しには、個体差のある桐に対して、3色の計18回のシルク印刷を職人が手作業で施しています。キャビネット本体は市松模様状にレーザーカットした金属を使用し、繋ぎ目は0.5mm程度と高度な金属加工技術で製作されています。
審査コメント
引き出しの開閉で色が変わる「Rainbow Structure Cabinet」は、使うたびに新しい発見がある家具です。引き出す動作によって変わる色彩のグラデーション、0.5mm単位の金属加工や多層シルク印刷の技術は、職人の技と最新技術の融合を示し、デジタル技術が手作業と同様にものづくりに活かされる時代を実感します。レコードやカメラといった嗜好性の高い品物の保管用途事例も、作り手がイメージする使い手や使う場を鮮明に想起させ、またその値付けとともに、売り手側の立場も明らかになります。湿気を調節し、静電気を帯びにくい「桐」という素材を選んだことにも、細やかな配慮も。機能性と美しさ、そして使う人の体験を重視した、これからのクラフトとして今後の展開を期待します。(秋山功一)
水月(すいげつ)
硅砂組
水月(すいげつ)
作品コメント
コアガラス技法によるバーナーワークでガラス中空容器を成型し、外面に箔を熔着。徐冷後内部を研磨。
審査コメント
薄青の水面から月が現れたような幻想的な酒器になっています。「珪砂組」というガラスや金属などの素材で複合技術による表現を模索し京都を中心に活動するユニットの作品です。コアガラス技法によるバーナーワークで薄く軽い作品に成型し、金箔と銀箔で表面を仕上げているため金属の表面でありながら軽さを生かした作品が素晴らしいと思いました。
実際に使用するときは薄青の台から外して使用するのですが、ぐい呑み単体も存在感と美しさがあり、台から外して使用しても決して「台無し」にはなりません。今後の「珪砂組」の活躍に期待したいと思います。(能作克治)
TRICERATOPS
島村辰弥
TRICERATOPS
作品コメント
この椅子はフレームだけでは強度が不足していますが、ペーパーコードを編み込むことで補強し、椅子として十分な強度を実現しています。
審査コメント
華奢な木材とペーパーコアを合わせた繊細かつ大胆な椅子に一次審査の時から目を奪われました。実は一次審査で評価したのは私だけで、審査ではあまりのフラジャイルな姿に本当に座れるのかという懸念の声があがり、最終的な選考は現物を見てからということになりました。
実際に座ると想像以上の安定感と座り心地に驚かされました。木材が圧縮力を担い、ペーパーコードの張力によって全体の構造を安定させるという、テンセグリティ構造の考え方がクラフトの中に活かされた素晴らしい作品です。北欧発祥の木材とペーパーコードの椅子は素朴な印象のものが多いですが、これほど三次元的で複雑な編み方の椅子はあまり見たことがありません。伝統的な素材の温かみに、先鋭的な造形の新しさが際立っていました。(永山祐子)
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