結果発表
2022/12/07 10:00

高岡クラフトコンペティション2021

応募作品数:1475点
受賞作品数:9点(入選を除く)
主催:工芸都市高岡クラフトコンペ実行委員会

グランプリ

薪ストーブ
竹内 淳
薪ストーブ
作品コメント
少し小さめの薪ストーブです。
審査コメント
今年のグランプリを決する際に審査員一同で改めて議論したのは「クラフトとは?」という問いでした。手でつくっているからクラフト? 造形がシンプルだからデザイン? 細密な技工だから伝統工芸? それら様々な領域を横断するクラフトという概念は、近年さらにその領域を広げています。この薪ストーブはシンプルな造形で燃焼部を支える足は対角線上の2本にすることで下部に置く薪の出し入れが容易になっています。燃焼室ドアや空気調整口のディティールやハンドルの造形など細部に渡ってよく考えられています。これまでの高岡クラフトコンペの「クラフト観」を更新した本作品が、様々な領域の作家を触発するのではと期待しています。(大治将典)

準グランプリ

盛りかご “冊”
中村 圭
盛りかご “冊”
作品コメント
このかごは角度によっては編んでいるようにも見えますが、実際は全く編んでいません。二重底になっており、上の段は浮いています。竹の編みではなく、素材そのものの美しさを伝えられるように、できるだけシンプルなデザインにしました。
審査コメント
シンプルで潔い、編むことを省いた美しい竹細工です。実はこの作品、初見では竹を編まなくて強度に問題はないのだろうかという不安が頭をよぎりました。しかし審査していく過程で、それはこれまでの竹細工という常識の中での考えだったということに気付かされました。強度の具合は使い手が決めることで、それに見合った使い方をすることによって道具は生きてきます。丁寧に使っていくことで、素材の味も出て素敵に変化していきそうです。この作品と対峙すると、しなやかで凛とした竹という素材の美しさに改めて気付かされます。このような新たな視点による挑戦から、クラフトの可能性が広がっていくのではないかと思います。(辰野しずか)

審査員賞(大治将典賞)

柑橘絞り
露木健太
柑橘絞り
作品コメント
新鮮な果実を手で絞ると、なんだか贅沢な気分になる。搾りたての果汁の味はもちろん、色や香り、温度まで…確かな感触があることで、忘れられない一つの記憶になる。そんなことを考えながら、現代の「柑橘絞り」をつくりました。
審査コメント
使っている状態、設えてある状態、どちらも美しい柑橘絞りです。設えて美しいといえばスタルクのレモン絞りJuicy Salifを想起させますが、こちらの作品の方が設える際にどうやって置こうか考えたくなる余地があります。上下で大きさの異なるヘッドがあるのでオレンジ等の大きな柑橘は大きなヘッドで、すだち等の小さな柑橘は小さなヘッドでしっかり絞れます。どこに飾ろうか、それともキッチンに何気なく置いておこうか、そんなことを楽しく考えました。

審査員賞(小林和人賞)

石器ナイフ
久保田新一
石器ナイフ
作品コメント
自然の石肌、打設による剥離面、切削研磨による模様色彩これらの組み合わせによる石器。
審査コメント(一部抜粋)
「クラフトとは何か」ということを問い直す出品作が目立った今回の選考会の中でも特に評価が分かれた作品の一つでした。道具としての実用性を疑問視する声もあった中、私は高岡クラフトコンペにおいては必ずしも機能性だけではなく、抽象性ともいえる「物が孕む余白」に目を向けた評価もあって然るべきではないかと考え、この護符のような存在に一票を投じました。刃は北海道瀬棚郡今金町花石で採れる瑪瑙の原石から加工。栗材のへぎ目や瑪瑙の剥離面からは荒々しい印象を受けつつも、刃と柄の峰のラインの繋がりと手に取った際のバランスに細やかな配慮が感じられます。刃と柄の合わせは、栗材を割って石の根元を挟む方法と、彫り込んだ穴に差し込む方法の2通り。接合部の固着には弾性に富む変性シリコンを使用とのことですが、個人的には多少不便でも松脂や鹿の腱を用いるなど、古代の技術で通して欲しいという気もします。

審査員賞(辰野しずか賞)

平豆皿「霜柱」
藤吉真理
平豆皿「霜柱」
作品コメント
絹糸のように細く引いたガラスを一本ずつ丁寧に並べ、霜柱をイメージした平豆皿を作りました。ガラスの糸一本だけでは、細すぎて色が分かりませんが集まり重なることで、とても深く奥行きのある色を見ることができました。見る角度によって異なる表情を見せるため、手に取り色々な角度から眺めていただけたらと思います。
審査コメント
見た瞬間から心を奪われた作品です。横長の長方形から成る縞のグラデーションの中に、「霜柱」を彷彿とさせる絹糸ほどの細かいガラスの柱が並んでいて、それ故に、一見シンプルに見える造形の中に豊かな色の奥行きを感じられます。上からも斜めからも、あらゆる角度から見ても美しく、思わず手に取って近くでいつまでもずっと眺めていたいという気持ちになります。ガラスは素材の特性上、光や影に反応し奥行きを感じやすい素材と捉えていましたが、この作品はこれまでに見たことのない奥行きを持っていて、その素材作りに対するこだわりも素晴らしいなと思いました。

審査員賞(寺山紀彦賞)

余光
北村隆浩
余光
作品コメント
鹿の角を削り花器を製作いたしました。生命の形とは存在する形と消滅する形の間に漂っています。消え逝く形の欠片に命の儚さと強さを感じるのは私自身もその間で生きる者としての命が共鳴しているのではないかと感じます。「余光」の花器から繋がる物や人や景色や未来に送る眼差しが慈しみを纏う、それこそが生活の中で自分自身の命を体感するものになればと思っております。使用は枯挿しとして掛け花入れやモビールなどを想定しております。
審査コメント
物作りで重要な要素の一つ完成形の魅力があります。どんなに素晴らしいコンセプトでも最終形が腑に落ちないと人の興味を引くことはできません。今回選ばせていただいた“余光”は、鹿角の輪郭を曲線のみ残し内部を削り出しています。角本来持つ自然の力強さに弱さ(人工的な作業)を追加することで、作家のコンセプト文にある“消え逝く形の欠片に命の尊さと強さを感じる”を表現できていて力強い作品でした。この手法はいろいろな物に対応可能なので、強い物の中にある尊さの表現を別の素材でもみれると嬉しいです。

審査員賞(Peter Ivy賞)

若森松 漆俎板 ─ 訳あって俎板に漆塗りました ─
無地工房
若森松 漆俎板 ─ 訳あって俎板に漆塗りました ─
作品コメント
漆の持つ◯防水性◯防カビ性◯抗菌性を活かし、設置面となる底面、そして意外と見落とされがちな側面も、漆で仕上げました。漆を塗ることで、単に調理器具としてだけでなく、より「大切にしたい一枚」として愛用していただけるよう、想いを込めました。一方で、もっと気楽に、漆に親しんでもらいたいとの想いもあります。その両方を兼ね備えた、365日・日々の暮らしになじみ、特別な日にはちょっとおめかしした雰囲気も出せる、俎板プレートを制作しました。
補足:若森松の説明 漆俎板の可能性を発見してくれたラーメン屋大将の屋号と漆俎板の制作者である私の名字を混ぜ合わせたモノです。
審査コメント
訳)作家として、自身のスキルをどう作品に反映させるか? 技術的に印象的で、感じの良い見映えに仕上げることは可能です。しかし、モノづくりに取り組む出発点において、日々の生活における問題解決よりも秀逸な方法はあるでしょうか。形態やテクニックは、作品のコンセプトに応じて後から決まります。私自身の作品も同じような考え方で作り始めます。作り手として、自分の作品とは「DYL(Design Your Life)自分の生活をデザインする」良い機会だと思っています。自分の生活の問題の中にいろいろな機会が存在していることに目を向けてみましょう。それらの問題は、自分だけが抱えているわけではないのですから。

奨励賞(高岡市長賞)

View Point
Shy Shadow[芳村 朗]×有限会社佐野政製作所
View Point
作品コメント
「平面の国旗を立体化したらどうなる?」という好奇心から生まれた置物です。上から見ると国旗、角度を変えて見るとスタイリッシュなデザインが楽しめます。様々な角度でものを観察する必要性を感じる昨今。自国、他国を新しい角度で見つめて、今までとは違う何かを感じ取っていただけたら嬉しいです。
審査コメント
今回の奨励賞(高岡市長賞)の審査には、私の視点からの考えも盛り込み、審査をしていただきました。この作品は、上から見ると平面的な国旗に、斜めから見ると建築物を思わせる立体的な造形に、横から見ると平面的で洗練されたデザインが目に映り、異なる視点から眺めることで見え方が大きく異なる作品です。今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催された年であり、国旗を様々な角度から眺め、その一面、一面に美しさを感じさせるデザインには、同大会のテーマであった「多様性と調和」と通じるところがあると考えさせられました。そして、高度なデザインであるにも関わらず、細部まで丁寧に仕上げられた完成度の高さには、作り手の技術の高さ、豊かな「手間」を感じる魅力的な作品でした。

奨励賞(高岡商工会議所会頭賞)

Akeru
クリエイ党、有限会社色政
Akeru
作品コメント
お香を挟んで固定するお香立てです。使わないときはひっそりとした佇まいですが、お香を挟むことで段差が生まれ、鮮やかな色の面が顔を覗かせます。使うことで印象の変化を楽しめる作品です。従来のお香立てにあった穴をなくし、お香立てを動かすという動作を加えたことで、お香を挟んで立てる今までにないお香立ての提案ができました。
審査コメント
高岡の鋳物の技術で作られた香立。上面が2つに別れてスライドし、棒状のお香を挟んで固定します。作者は挟んだ際の見える断面の鮮やかさを強調していますが、現状では使用時にその断面はあまり意識されないなと思いました。それより使ってない状態のマッスな塊感をより強調し、使う際にそのマッスがぴしっと割れたと見えるように細部の形状を見直せばより魅力的になるのではと感じました。(大治)
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