結果発表
2017/01/10 10:00

三協アルミ 未来のとびらコンテスト 2016《大学生版》第2回 学生デザインコンペ

応募作品数:92点
受賞作品数:8点(空間提案7点/建材提案1点)
主催:三協立山株式会社 三協アルミ社

【総評】審査員長 西沢立衛
昨年にひきつづき、ずっといたくなる居場所を考えるという課題で、しかし昨年と違うのは、昨年は「住宅」または「図書館」という、具体的な機能が要求されていたが、今年は、具体的な機能のしばりはなく、住宅であっても街であっても、集会所であってもなんでもよくて、自由に人の居場所を考えてほしい、というものだった。具体的な機能の制約がないことがどういう結果になるか、より自由な提案が多くあつまるのか、または何でもありはかえって提案しづらいと感じる応募者もいるのだろうか、などといろいろ考えたりしたが、いざ蓋を開けてみると、どの案ものびのびとしていて、等身大の提案で、それを見て安心したし、応募者たちの実力の高さをも感じた。また内容的にも去年よりもレベルがあがっていたのも、頼もしく感じた。ずっといたくなる場所、居心地のよい場所ということは、ある意味で建築のもっとも初源的な条件であるとも言える。そういう意味でも、よい課題だったし、それをしっかり受け止めた提案が多く出たことは素晴らしいと思った。
空間提案

最優秀賞

Glass Straw Roof
上田満盛(大阪市立大学大学院)、大坪良樹(大阪市立大学大学院)
Glass Straw Roof
コンセプト
茅葺屋根は優れた環境性能が認められているが、なにより周辺住民を募って「葺き替える」という行為に、共同体としての建築の姿があった。茅の代わりに耐火性に優れるガラス繊維を用いれば、都市部の建築はそのような営みを取り戻せるのでないだろうか。
優しく照らされた大屋根の下に集う人々と暮らし、時折皆で屋根にのぼりガラスの糸を束ねる。ガラスはもはや強度や透明度によって人との距離を調節する材料ではなく、人々を直接つなぐ材料なのである。
ガラス長繊維は優れた複合材料を生み出し、あらゆる製品に使用されている。しかし、その強度の高さから処理が困難であり、不法投棄の要因ともなっていた。現状では、特殊な処理後に埋め立てるのが最良とされている。
ガラス長繊維を費用をかけて短期的に処理するのではなく、建築を介して時間をかけて劣化させる。それが適正に処理される時期になれば建築も更新され、それが住民と地域の人々を結ぶ営みとなる。
審査員長 西沢立衛 講評
最優秀となったglass straw roofは、住宅地の只中に忽然と登場する、透明藁葺き屋根の建築である。全応募案の中ではこれがもっとも、出来上がった姿を見てみたいと思わされた案であった。課題テーマにあっているかどうか?という疑問はなくもなかったが、機能的なことの説明をせずに、それが皆のための地域の場であることを暗示する力をもつ建築で、魅力を感じた。ただ、皆でグラスファイバーを葺き替えることで共同体の結束を強めるというところは、無理があると感じた。
審査員 大西麻貴 講評
街の中にある半屋外の大きな屋根の下に集まる、という素朴でやさしい魅力が評価された。屋根は半透明のガラス繊維で出来ているため、茅葺きから連想されるどっしりとした重たい暗い屋根とは異なって、不思議とやわらかく明るい光に溢れたイメージがあった。そんな光に溢れた空間が町の中に佇んでいる様子も、よいのではないかと感じられた。
審査員 百田有希 講評
ガラス繊維で出来た茅葺屋根が魅力的。柔らかい光に包まれた状態はどんな感じだろうと思わず想像してしまう。屋根が浮かんでいて、前の通りが屋根の下まで入りこんでいるのも良いなと思った。
また「ずっといたくなる場所」というテーマに対して、街の中のサロンのような建築を提案しているのが良い。ずっといたくなる場所には、大勢でずっといたくなる場所や、一人でずっといたくなる場所などいろいろあると思う。この提案では、顔が見える関係の中で、みんなと共有することで生まれてくる居心地の良さをつくろうとしていて、その点が良いと思った。

優秀賞

ドアを開けたわたしの街と窓を開けたみんなの部屋
浦田友博(京都工芸繊維大学大学院)、小野木敦紀(京都工芸繊維大学大学院)
ドアを開けたわたしの街と窓を開けたみんなの部屋
コンセプト
家の表情をつくる既製品の建具がその通りに使われることからはみ出した、建具がつくる新しい街の様相を考えようと思う。普段使われている建具がスケールを変えたり、思いもよらぬ使われ方をする。例えば、隣の家まで続いている窓があったり、テラスにもなる蔀戸があったりする。おかしな建具の家の集まりは、普通の家とは違う表情や、連続する生活の様相をつくりだし、建具が開きはじめると、お隣さんとつながる家や、大きな集会所のような家や、商店街みたいに家具がとび出した家があらわれる。家と家の間の小道は建具であふれ、まるで部屋の中のようにも見える。大きな場所や小さな場所、部屋の中のような外、外のような中が連続し、あるところでは読書をしたり、コンサートが始まったり、パーティが開かれたりする。ひとつの住宅の単位を超えて、わたしの部屋は、みんなの街の一部に、みんなの街はわたしの部屋になる。
審査員長 西沢立衛 講評
優秀賞の「ドアを開けたわたしの街と窓を開けたみんなの部屋」は、奇妙な建具が家と家の関係を変えてゆくというアイデアで、今回の応募案の中ではもっとも課題主旨を真正面に受け止めて、答えた提案であった。つまり、ずっといたくなる場所という問いかけ、新しい建材提案、地域と建築の関係などの諸課題を、ユニークな建具を開発することで、すべてに対して答えた。そうとう無理のある建具がばんばん出てくるが、全体としてユーモアと優しさがあり、魅力を感じた。
審査員 大西麻貴 講評
開口部の在り方をストレートにテーマにした気持ちのよい提案。いろいろな建具のアイディアがあり、どれも建築の内外に魅力的な居場所をつくっている。窓が開くと家と家がつながってしまうアイディア、扉が大きく開いて屋外に劇場のような場所を生み出すアイディア等、とても面白く感じた。
審査員 百田有希 講評
建具が対話のきっかけになっているのが面白い。またその相手が、光や風といった自然であったり、隣の家だったり、中庭や通りだったりと、いろいろな他者と関係を結んでいるのがいいなと思う。
街や隣人とどのような関係を結びたいかという住む人の態度が、建具を介すことによってそのまま空間に表れていて、それによって街の表情がつくり上げられていくのが魅力的に感じた。
心地よい孤独
有光史弥(熊本大学大学院)
心地よい孤独
コンセプト
"ずっといたくなる場所”とはどういう場所だろうか。
現代社会ではSNSなどにより多くの人とつながっている。それは物理的なつながりではなく、目に見えないつながりである。しかし、そのつながりを求め、人々はSNSに依存し、その中で生活している。そんな現代人にとって、ずっといたくなる場所とは、そんなSNSのようなつながりをもった空間なのではないだろうか。つまり、不特定多数に見られるSNSの中で、個人のアカウントを持ちながら存在しているように、「大勢」の中に存在していながらも、「個」というものを確立している状態が、気持ち良く、ずっといたくなる感情を抱くのではないだろうか。そんな“ずっといたくなる場所”を空間化することで、多くの人と群れながらも、個として存在する、独りの人間にとって心地よい、“ずっといたくなる場所”を計画する。
審査員長 西沢立衛 講評
優秀賞となった「心地よい孤独」は、空間の構成方法、プレゼンテーション、いろんなところで巧みさを感じる案であった。理屈を考えて、そこから建築を説明する、というやり方も手慣れていて、コンペで鍛えられた巧みさを感じた。とくに、今回のコンペで問われた、地域との関係や、建具の提案、ずっといたくなる場所etcという本コンペ独自の問いかけとは懸け離れたところで案の魅力が作られているというところからも、本コンペ以外の他コンペであってもある程度通用しうる案だと感じた。
審査員 大西麻貴 講評
平面図を見てみると、確かに大小様々な魅力的な居場所が出来ていると感じさせられた。人にとって、みんなと一緒にわいわい楽しく過ごすだけでなく、一人の静かな時間を楽しんだり、目的がなくともいられる場所があることは大切なことだと思う。しかし、心地よい孤独、というタイトルが少し後ろ向きすぎると言うか、空間の素朴さやプレゼンテーションの柔らかさに対して、言葉が合致していない様に感じられた。また、パースの家具の置き方に、もっと空間を生み出して行くアイディアがあったら、より良かったと思う。
審査員 百田有希 講評
大勢でいても一人でいても「ずっといたくなる場所」を同時につくり出そうという試みに共感した。平面をフラクタルに多角形分割し、さまざまな大きさの場所を生み出しているし、開口部の操作で各部屋のつながりを考えている。ただ均質でダイアグラム的に見えるのが気になった。開口部もガラスが入っている開口や、見えるけど通れない開口など、様々な種類があるはずで、それによってどのような場所が生まれるか、どのようなルートで体験されるのか、隣接する部屋同士がどのような関係を結ぶのかがもっと伝わってくると良かったと思う。
湾を巡る ─ クジラ・イルカがつなぐ街の誇り ─
保坂 整(東京工業大学大学院)
湾を巡る ─ クジラ・イルカがつなぐ街の誇り ─
コンセプト
基本対象者は和歌山県太地町の町民(特にイルカ追い込み漁に関わる人々)、観光客。設計施設は漁港、捕殺場、水族館、それらをつなぐ遊歩道。利用の仕方は通常の漁業はもちろん、特にクジラ・イルカに対して、漁、飼育、展示、研究を行うことである。プロジェクトの目的は太地町では3つの各湾に対して漁港、捕殺場、水族館がすでに機能として割り当てられている。それらをそのまま活かし、沿岸部を回る遊歩道がつなぐ。400年の歴史はただ簡単に続いてきたのではなく、いくつかの存続の危機を乗り越えて今に至る。これは今回のテーマ文の一部である「ずっと…」という言葉をより鮮明に述べているのではないか。ずっと居たくなる場所を作る建築は長い時間と呼応したり、時には耐えたりとある種の強さを持っていると思う。そこで、太地町の追い込み漁を建築の力で存続させることで太地町民にとっての誇りを失わずにずっと居たくなる場所作ることを目的とする。
審査員長 西沢立衛 講評
優秀賞となった「湾をめぐる-クジラ・イルカがつなぐ街の誇り」は、イルカ追い込み漁で知られる和歌山の小さな町を、どうやって盛り立ててゆくか、という提案である。「ずっといたくなる場所」というお題に対して、建物や空間単体、建具といったことで答えるのではなくて、街全体で答えようという姿勢が、全応募案の中でも際立っていて、魅力を感じた。提案の中心にあるテーマがもつ社会性も、本提案の重要な個性になっている。空間的な提案がこれに加われば、より魅力的な案になるのでは、と感じた。
審査員 大西麻貴 講評
ずっといたくなる場所、というコンペのテーマに対して、建築一つで居場所をつくる提案でなく、地域への愛着や誇りを育みずっといたくなる街を作って行く提案をしたところが他の案には無い魅力であった。このような提案は、どのくらいその街に本気で向き合い、愛情を込めて取り組んでいるかが大切だと思う。提案している街の人の顔や、そこで営まれている生活、受け継がれてきた文化、現状の問題点やこれからの展望等、魅力的な空間とともにもっと詳しい提案を聞いてみたい。
審査員 百田有希 講評
「ずっといたくなる場所」というテーマに対して、残すべき集落や文化を取り上げている点が他の案と際立っていた。ただその取り上げ方が少しジャーナリスティックで外部からの視点に感じられたのが気になった。「ずっといたくなる」という感覚はもっとポジティブで自発的なものだし、身体的な感覚や思いから生まれるものだと思う。この提案によって、どんな風に人々の間に共感や愛着が育まれていくのかが伝わってくるとよりよかったのではないかと思う。

審査員賞(西沢立衛賞)

居場所をつくる
櫻本康乃(京都工芸繊維大学大学院)
居場所をつくる
コンセプト
ずっといたくなるとは、ある意味で何かに没頭していることだと思う。庭を眺めたり、本を読んだり、編み物をしたり、友だちとおしゃべりしていて、いつの間にか時間が経っていたとき、そこは、ずっといてしまう場所なのだ。
敷地は、主要駅からバスか徒歩で行けるところにある都市公園の中を考える。地元の人や観光客が行き交う場所に、誰もが自分の時間を過ごしたり、交流できる場を提供する。ひとつづきながらも、天井やスラブにレベル差をつけることで、多様な空間を生み、人々はそれぞれ自分のお気にいりの居場所を見つける。建物に大きく入り込んだ緑は、たくさんの光を取り入れ、外のような中のような感覚を与える。それは建物内のどこにいても感じることができ、そこにいる人々の共有の風景となり、それぞれの居場所をつなぐ。大きな木の下で、みんなが思い思いの時間を過ごす、そんな風景がつくれたらと思う。
審査員長 西沢立衛 講評
西沢賞は、櫻本康乃さんの「居場所をつくる」となった。図書館なのだろうか、もしくは公民館か情報センターのようなものだろうか、実際に街中にあってもよさそうだし、実施コンペでテーマになりそうな内容で、実施コンペでも提案できるような建築だと感じた。そういう現実的な建築提案というフレームの中で、居場所をつくるという課題に取り組んでいて、好感を持った。建築の作り方の素直さ、まっすぐさにも、魅力を感じた。屋根にもいろいろ工夫があるように見受けられたが、全体像は見えなかった。

審査員賞(大西麻貴賞)

衣を纏う家
平松尚幸(日本大学大学院)
衣を纏う家
コンセプト
「ずっといたくなる場所」は個人によって異なり、またその日の気分によって変化する。それぞれの人がその日の気分で自分の居場所を作ることのできる住宅を考えた。ベランダが住宅を囲い、個々が自分の居場所を作る。天気・季節・時間によってベランダでの営みは変化していく。また、ベランダに接続する内部と隣地との関係により、どの方向に対しても異なった活動が現れる。その個々の活動がひとつながりのベランダにより住宅を包み、住宅は姿を変えていく。この家は、人々が活動という衣を纏い、日々衣替えをしていくのである。計画敷地は、均質な戸建て住宅が建ち並ぶエリアとした。このエリアの風景から、人と異なることが批判され、個性を奪う現代の教育のような息苦しさを覚えた。私はこのエリアで家族の個性を都市へ表出させる、表情豊かな住宅をつくりたいと考えた。
審査員 大西麻貴 講評
既製のベランダを使いながらも、それらを互いに連結して行くことで屋外にもう一つの階段状の居場所をつくってしまう提案。とてもシンプルな提案なのに、屋外に出来る新たな経路によって、家での体験がとても豊かになっている。一つの家族のための家と言うよりは、例えばシェアハウスの様にいろんな人が住む家として提案する方が、より面白かったかもしれない。

審査員賞(百田有希賞)

感じながら過ごす
大石理奈(名古屋工業大学)
感じながら過ごす
コンセプト
日々を過ごしながら、いつも知らぬ間に流れている時間、いつのまに変わっている季節。私は感じることができずに過ごしているのではないか。
幼いときは、雨の日は縁側で、屋根から落ちる雫を目で追いかけて、窓ガラスについた水滴がゆっくり流れるのをずっと見て、飽きることがなかった。
晴れの日は雲の流れや形が変化するのをみながら昼寝した。
ずっといたくなる場所は変化を感じることができるところである。
周りがじわじわとゆっくり変化していく。私はそれを目で、体で追いかけたくなる。
ここでは天気の変化、時間の流れ、季節のうつろいを存分に感じることができる。
ここに来る人は、自然、あるいは自分が起こす小さな変化の発見に喜びを感じることができる。
時が経つのと共にずっといたいと思うことができる場所を提案する。
審査員 百田有希 講評
細い糸のアルミで縫った葦簀の提案である。編み込むことで密度を変化さることができる。屋外の東屋として提案されているが、小さな家に大きな葦簀をかけても良かったのではないかと思う。日除けをアルミでつくることは、熱環境的にも理にかなっているし、葦簀との間に生まれる大きな半屋外の空間には、縁側・葦簀・庭木・塀といった空間的な奥行きで環境調整を行ってきた日本家屋に通じる魅力があると思う。
建材提案

三協アルミ賞

感じながら過ごす
大石理奈(名古屋工業大学)
感じながら過ごす
審査員 白井芳克(三協アルミ 事業役員) 講評
窓は景色を切り取り住まう人に癒しや居心地の良さを与えますが、写す対象を誰でも公平に供給される自然現象による変化、移り変わりに置き、それを楽しむスクリーンを広げ多面化し部屋全面とし、その上で「ずっといたくなる場所」を誰もが有する日常の住まいとしている点など豊かな感性で背伸びすることなくまとめられた提案は、多くのシチュエーションに共感を覚えると共に内と外を隔てる壁面に人の感情を豊かにする性格を最大限注入した画期的なものとして強い衝撃を受けました。また建材提案いただいた「糸のように軽いけど強度のあるアルミ」は、実現に向けて高いハードルではあるものの、その発想はこれまでの固定概念を大きく覆すものでありそのコンセプトは今後のサッシやカーテンウォールの新しい価値を創造していく上で必要不可欠である「組み合わせ効果の創出」に直結するものです。前述の全面スクリーンと合わせ多くの技術開発担当から共感を得ました。
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