2016/09/28 10:00
「親子の日」エッセイコンテスト
受賞作品数:20点
主催:親子の日普及推進委員会
※ここでは、オリンパス賞の2点をご紹介します
オリンパス賞
届いたやさしさ
長友和久
- 作品内容
- 僕は二通の年賀状を大切に持っている。
どちらも父が僕宛に書いてくれたものだ。
就職活動がうまく行っていなかった僕は、大学4年生の12月にようやく就職先が決まった。
年を越す前に決まってほっとしたのを覚えている。
正月に届いた父からの年賀状には、祝福の言葉と社会人としての心構えが綴られていた。
喜びと勇気が湧いてきて、希望に満ちた社会人一年目をスタートできた。
その数年後、父はがんで亡くなった。社会人としてようやく自信がついてきた頃だった。
遺品整理をしている時、父の書斎の引き出しから僕宛の年賀状が出てきた。年度は僕が大学卒業の年だ。
そこには、「就職活動に失敗したくらいで何だ!もう一年がんばれ!」と励ましのメッセージが書かれていた。
父は、僕が就職できなかった時のために、もう一通の年賀状も準備してくれていたのだ。
出されることのなかった年賀状から、数年の時を越えて父のやさしさが僕に届いた。
今でも僕は二通の年賀状をよく読む。そして父のように思いやりのある人間になりたいと思うのだ。
安心する声
泊 夏希
- 作品内容(一部抜粋)
- 母からかかってきた日は勝ちで、私からかけた日は負け。
1年前に就職で上京してきてから、3日に1度は交わす母との電話。
お互い愚痴の言い合いとなるその電話に、いつしか私はルールを設けるようになった。
初めてのことばかりの仕事に不満が募り、携帯電話に手が伸びることもしばしば。
その時、なぜか「今電話したら負けだなあ」と一瞬躊躇してしまう。
電話で愚痴を散々吐き出した日には「負けたなあ」と変に落ち込んだりもした。
仕事を始めて半年ほど経った頃のことだ。
あまりにも仕事が辛く、帰宅途中すがるように電話をかけた。
数回のコールの後聞こえてきたのは、ここ最近聞いたことのない程楽しそうな声。
うるさいガヤをバックに、「親戚が昇進した」と早口で言う母は酔っていた。
宴会に同席している親戚が代わる代わる電話口に登場し、仕事はどうだと聞いてくる。
3人ほどと言葉を交わした後、私は話の途中だったにも関わらず電話を切ってしまっていた。
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