結果発表
2022/01/21 10:00

第32回 人と海のフォトコンテスト「マリナーズ・アイ」

応募作品数:4125点
受賞作品数:17点(入選を除く)
主催:一般財団法人全日本海員福祉センター
※ここでは、上位7点をご紹介します

大賞

海に祈りて
一瀬邦子
海に祈りて
審査コメント
本展において大賞を女性作家が受賞したのは、第19回展以来二人目である。実に十三年ぶりの快挙だ。女性の応募者が昨年より43人増えたとは言え、全体の応募者から見れば、わずか18%弱である。その中での受賞だから価値はある。
作品は2枚組で、浜松市にある有玉神社の例大祭の禊の儀を取材したもの。例大祭の一大イベントは400年前から継承されてきた流鏑馬神事だ。徳川家康が大阪夏の陣で使っていた白馬を戦勝記念に神社に寄進したことからはじまったとされている。禊の儀はその行事の最初に馬に乗る者、馬を引く者など関係者が近くの米津海岸へ行き、安全を祈願する神事である。作者は行動を共にして、厳かな神事の一部始終を撮っている。深くたれこめた雲が場面を一層幻想的にさせている。(小松健一)

推薦

海と生きる
皆川春奈
海と生きる
審査コメント
美しい仕上げのモノクロームプリント、適確な絞りで被写界深度を生かした画面が眼を引いた。一流のプロ写真家が撮影した肖像写真のような品の良い重厚さのある作品である。作者がパートの若いお母さんだと知ってさらに驚いた。
この作品が撮られたのは、日本で一番海に近い駅で知られる愛媛県伊予市にある下灘駅近くの下灘(豊田)漁港だ。伊予灘を一望できるこの港は、鱧漁が盛んで、年間400~450トン水揚げされる全国屈指の漁港だ。今年87歳になった老人が馴れ親しんだ港で日向ぼっこをしている。顔や手に深く刻まれた皺の一筋一筋からは老漁師の人生が静かに語りかけてくる。(小松)
出航まじか
有田 勉
出航まじか
審査コメント
迫力ある写真である。今まで見たことのなかった構図だ。トロール船が漁に出航する準備の一場面を捉えたもの。底引網を巻き上げる船底に入り、ロープに絡み付いた魚の骨やゴミなどを漁師が掃除している光景である。シャッターチャンスも適確だ。撮影地は岩手県。作者は宮古の人だ。十年前の東日本大震災において甚大な被害を被った宮古市。その宮古でも、人々は逞しく海と生きているというメッセージを伝えてくれるような作品である。(小松)

特選

出船入船
小泉次郎
出船入船
審査コメント
毎回、朝日や夕日を撮った作品は千数百点は応募される。巨大な太陽を写したものも少なくない。今回はレベルの高い作品が多く、最後に特選となったのが本作品だ。タイトルの通り、出航する船と帰港する船が巨大な夕陽の前で交差する瞬間を捉えている。今までにこのアングルで撮った作品はありそうでなかった。
手前の波も黒く潰さないで夕日が反射しているのも良かった。
撮影地は作者の地元の松山港(六港の総称)。万葉集にも詠まれている古くからの瀬戸内交通の重要拠点である。上海やマニラなどへの国際定期航路もある。
夏目漱石や正岡子規が利用したのも松山港の中の三津浜港。僕も小説『坊ちゃん』の取材でこの港を何度か訪れている。(小松)
海の仲間たち
石川賢一
海の仲間たち
審査コメント
海ガメとその下に、群れて泳ぐ魚たちを「仲間たち」と捉えているのが望ましく微笑ましいと思った。そして良くこうした光景に遭遇できたな。どう撮ったのだろうかと思ったのである。審査終了後、水族館での撮影だとわかった。ちょっぴり残念であったが、何よりもこの作品には自然の海原で撮ったと思わせるリアリティーがある。特に海ガメが水中から顔を出した瞬間を捉え、小さな波紋を表現している。これが憎い。(小松)
寒冷のシラスウナギ漁
前原益雄
寒冷のシラスウナギ漁
審査コメント
シラスウナギ漁の写真は、ここ数年たくさん応募されるようになった。冬の波を浴びながらライトに照らし出される漁師たちはフォトジェニックなのだろう。
この作品は、波は写っていないが二月の冷たい雨と網から滴る海水を浮かび上がらせたのが成功した。漁する人が少年か、若い女性のように見えるのもこの作品のポイントである。
志布志市と大崎町の境を流れる菱田川の河口での撮影だ。今年のシラスウナギは、昨年よりキロ当り20万円程高い110万の値だと言う。(小松)
海を愛する遊人隣人
太田誠二
海を愛する遊人隣人
審査コメント
第31回展の作品評の中で、海の環境問題がこれからの写真のテーマとしてクローズアップされると書いた。さっそくその問題提起に対して応えてくれた作品が寄せられたのはうれしかった。中でもこの作品は海辺で清掃作業をしている光景を撮っている。プラスチックやビニールが混ざったゴミの山、背後に作業する人やサファーたちも見える。もう少し、ゴミをアップにして画面の中心に捉えたらさらに上位に行っただろう。
右に佐渡が見えるが、日本海の夕陽が一望できる海岸だ。間瀬という村の名は、室町時代の記録にも残っている。
美しく由緒ある海岸を未来に継承するのは、今を生きる者の責務である。(小松)
関連記事