結果発表
2026/01/22 10:00

資産形成学生論文アワード 2025《大学生・大学院生限定》

主催:一般社団法人 投資信託協会

受賞作品数:5点

最優秀賞

該当なし

優秀賞

資産運用に対する意識が個人投資家の投資行動に及ぼす影響
池ヶ谷真希(高崎経済大学 経済学部)
要旨(一部抜粋)
本稿は、日本の家計の投資行動に与える行動経済学的要因について資産運用に対する意識に着目し、アンケート調査のデータを用いて分析したものである。近年重視されている行動経済学的要因以外に、独自に「資産運用に対する意識」を数値化した点と、回答者全員と投資実施者のみに分けて分析した点に特徴がある。得られた結果として金融機関選定における資産運用に対する意識が高いほど、投資への意欲や実施の有無にプラスの影響を与えることが明らかとなった。一方、投資実施者においては、株式を含む投資信託を保有する確率と投資結果に満足している確率を下げる結果が確認された。続いて、投資実施者において、投資をおこなう上での資産運用に対する意識が高いほど、株式を含む投資信託を保有する確率を高めること、投資結果に満足している確率を高めること等が明らかとなった。
審査コメント(一部抜粋)
投資信託協会の1万人調査個票データから、独自に「金融機関選定軸」と「投資判断軸」を設定し、「資産運用に対する姿勢」に着目して分析を行ったことは意欲的でした。特に、「金融機関に求めること」や「投資で重要と考える点」を切り口とする視点に独自性がありました。
また、各変数の説明や係数の符号の予測や推計結果、さらに分析結果から示されないことや理由不明の部分を率直に記述していること等、全体に丁寧で分かりやすい記述がなされており、優れた論文として優秀賞を授与し、作品を公表いたします。
他方で、主要な変数の設定根拠が必ずしも明確でなく、恣意性がやや感じられ、分析精度には改善の余地が感じられました。説明は丁寧であるものの、結果依存的であることが否めず、仮説の提示や検証という研究の基本構造が十分に機能していない点は惜しまれるところでした。選択肢の選び方や得点化の方法は結果に大きな影響を及ぼします。
NISA制度を考慮したポートフォリオ最適化
松田昂太朗(京都大学大学院 情報学研究科)
要旨
NISAとは、日本国内に居住する個人を対象とした少額投資非課税制度の通称である。通常、個人が上場株式等への投資を行って得る譲渡益や配当金は課税対象となり、日本では年間利益の約20%を税として支払う必要がある。しかし、NISA制度を利用した投資では、これらの利益はすべて非課税となるため、通常の投資に比べて有利であると考えられる。NISA制度には、保有限度額をはじめとして様々な制約があり、投資家はこれらの制約を考慮した上で投資決定を行う必要があるが、従来のモデルでは、譲渡益等にかかる税金の精緻な考慮はされていない。本論文では、NISA制度を利用した非課税運用と通常の課税運用を明確に区別した1期間モデルを提案する。凸計画問題として定式化するための緩和についても併せて提案する。また、数値実験を行い、課税の有無を明確に区別しない従来モデルと提案モデルとを比較し、提案モデルの優位性を確認する。
審査コメント(一部抜粋)
通常のポートフォリオ最適化では、税制を明示的に扱わないことが一般的であるところ、リバランス時において課税・非課税を両方含めてモデル化し、分析するという本作の試みには、高度な工夫と新規性が認められました。優れた論文として優秀賞を授与するとともに作品を公表いたします。
ただし、分析の根幹に関わる論点の記述が不明瞭でありました。中核となるシミュレーションの扱いについて、本作では1期間モデルを繰り返した最適化が行われていますが、その際に、各シミュレーションパスの価格を「実現した将来」とみなして最適化しているのか、あるいはそうではないのかが明記されておりませんでした。前者であれば整合的であると思われますが、後者であればモデルの前提が成立しない可能性が否定できず、極めて重要な点と考えられます。

佳作

イベント発生時の株価変動と新聞の感情スコアの関連性
浦部凪人(青山学院大学 経営学部)
要旨(一部抜粋)
本研究は、2025年4月に発表された米政権の相互関税措置および中国の報復関税により日経平均株価が大きく変動した時期を対象として、日本経済新聞記事の論調と株価変動の関連を検証したものである。
日経新聞朝刊1面・3面の計156本の記事に極性辞書を用いて感情分析を実施し、論調を数値化した感情スコアと株価や変動率との相関を算出した。その結果、1面記事の感情スコアは翌日の株価、特に高値・終値と強い正の相関を示し、株価が大きく変動した期間には翌日の変動率との間に高い相関が確認された。これは新聞記事の論調が投資家心理を通じて市場に影響する可能性を示す。一方で、より専門的な内容が掲載される3面記事との相関は限定的であった。
審査コメント(一部抜粋)
ニュース報道の内容を、感情分析および共起ネットワーク分析により数値化し、株価変動との関係を探ろうとすることは、意欲的な試みでした。先行研究を的確に踏まえたうえで、平常時ではなく2025年4月7日から11日というイベント時に着目した分析設計は評価に値します。また、新聞の1面と3面を比較するなど、ニュース価値の層を読み解こうとする視点も独創的でした。論理構成は明晰で、手法の説明も丁寧であり文章力も高く、佳作を授与して作品を公表します。
一方で、分析期間が短くデータ数が少ないため、結果が偶然性に左右された可能性は否定できず試験的に見受けられます。当該期間は日経平均の騰落率とNYダウ前日騰落率の相関が高く、米国市場の影響だけで説明できてしまう局面でありました。この点を踏まえ、外的要因を統制したうえで複数イベントでの再検証が求められます。

奨励賞

若年層の資産形成をめぐる法哲学的考察 ─ 「自由・責任・公共性」の観点から
村瀬巧実(立命館大学 法学部)
審査コメント(一部抜粋)
資産形成という経済的テーマを、「消極的自由」「積極的自由」という法哲学の概念を軸に再解釈し、「自由・責任・公共性」の三つの視点から制度のあり方を問い直した点は独創性がありました。
文献を参照しつつ論理を丁寧に組み立てた構成は明晰で、金融包摂の視点を持ち、金融制度やサービスの意義を考察しています。資産形成を、金融教育等個人の能力形成と結びつける考察は説得力があり、今後の成長・発展を期待して、奨励賞を授与いたします。
ただ、既存の議論との接続がやや弱く、先行研究の整理が不足しているために、独自の主張を裏付ける学術的基盤が十分に示されていない点が、惜しまれました。
投資における自由・責任論や金融教育の必要性は広く論じられており、本作の独自性をより強めるには、先行研究の批判的検討や哲学的枠組みの意義をより深掘りする必要があると思われます。

アイデア賞

生成AIを用いた長期投資ポートフォリオ分析
松岡剛也(金沢大学 人間社会学域 経済学類)
審査コメント(一部抜粋)
生成AIを用いた銘柄選択とポートフォリオ構築をテーマに据え、現在の関心領域に正面から取り組んだ点に意欲が感じられました。生成AI活用の可能性を検討する発想力や、若年層の投資行動やロボアドバイザーへの応用を見据えた視点は今後の発展性を感じさせられ、アイデア賞を授与いたします。構成は明快で、先行研究の知見を踏まえつつ議論を組み立てようとする姿勢も評価いたします。
その一方で、分析手法やそれを記述する論文としては改善の余地がありました。生成AIを用いた銘柄選択が過去データに強く依存しているため、結果的に「過去に成長した企業を選び直した」に留まってしまっている点は否めませんでした。
また、ウェイト付けやベンチマーク設定といったポートフォリオ運用の根幹部分が十分に検討されておらず、パフォーマンス評価も行われていないため、本研究の結論に実証的な説得力を持たせるには至っていませんでした。
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