結果発表
2025/01/17 10:00

資産形成学生論文アワード 2024《大学生・大学院生限定》

主催:一般社団法人 投資信託協会

受賞作品数:4点

最優秀賞

該当なし

優秀賞

双曲割引が老後の貯蓄に与える影響
和泉晴香・姫野柚葉(広島大学)、鍋島萌花(広島大学大学院)
要旨(一部抜粋)
本研究は、65歳以上の貯蓄額と双曲割引との関連を検証するため、証券会社と所属研究室が2023年に共同で実施した調査のデータを用いて分析を行った。貯蓄額を2000万円、3000万円、5000万円、1億円以上の4区分に分類し、双曲割引の影響を検討した結果、双曲割引は2000万円および1億円以上の貯蓄額に対して統計的に有意な負の影響を与えており、長期的な貯蓄形成の阻害要因である可能性が示唆された。一方で、3000万円および5000万円以上の貯蓄額に関しては有意な関連は見られなかった。さらに、年齢、教育年数、世帯収入、金融リテラシーは貯蓄額に正の影響、子供の人数や近視眼性は負の影響を及ぼした。男性では双曲割引が貯蓄額に有意な影響を与えたものの、女性ではその影響は確認されなかった。
審査コメント(一部抜粋)
双曲割引と貯蓄額の関係に着目した点はオリジナリティがあり、論点が明確で、関連した先行研究を的確にサーベイした上で必要なプロセスを経た検証や、統計的に適切な分析がなされたことを高く評価します。ライフプランニングにおいては、短期でも10年を意識する必要があると思われるなか、長期的な視点を持つ動機づけになり、優れた論文として優秀賞を授与し作品を公表いたします。
ただし、双曲割引と貯蓄額の、相関と因果については、より考察が必要であったと思われます。双曲割引がなぜ2000万円および1億円以上の貯蓄額に対して統計的に有意な負の影響を与えているのかの考察や、近視眼性がほぼすべての金額帯で有意であること、双曲割引が変わらない強い仮定についても、深い考察が必要であったと思われます。

佳作

区間AHPに基づく制約付き平均・分散モデル
比留木幹人(京都大学)
審査コメント(一部抜粋)
市場価値モデルに定性情報を組み込む試みはとても独創的でした。ポートフォリオ構築は、平均分散アプローチ(期待リターンとリスクの二つの指標から構築する)で行うことが一般的であるところ、各人の目標を組み込む考えはオリジナリティが高く、佳作を授与いたします。
AHPでポートフォリオを組む際は、AHPの階層構造図を使った上でどの投資対象にどれだけ投資をするか、投資ウェイトを決めるのが標準的モデルであり、それについて区間AHPを活用した分析は良いアイデアでした。AHPを活用した最適化が広く活用されていないなか、具体的な最適化の手順まで表した点は高く評価いたしました。
一方で、AHPに関するその有用性の示唆やパラメーターの設定、またインフレヘッジのデータ設定について、経済合理性の点で納得性に欠けていると思われる点が見られました。

敢闘賞

ベーシックアカウントを通じて脱投資後進国を実現 ~若年期から自律的に資産形成するための理想の金融教育~
高塚きらら・森永俊栄・大原奏那・斎藤大士朗(同志社大学)
審査コメント(一部抜粋)
自ら高校生と大学生にアンケート調査を行い、認知バイアスに注目し、行動変容モデルから自律的な資産形成のための金融教育に結び付けた分析の独自性を評価し、敢闘賞を授与いたします。
ステージモデルの各ステージに関連した認知バイアスを当てはめ、それらについてのナッジをベースとするソリューションを提示している点を評価いたします。
ただし、ベーシックアカウントへの導きには飛躍が否めませんでした。ベーシックアカウントはシンクタンクから提言された既存のアイデアであり、その実現性が課題とされていると思われます。結論として、なぜベーシックアカウントを導入すべきかについて、深い考察を望みます。
また、高校生と大学生に限定した調査結果から、日本人全体の投資行動を結論づける点においても飛躍があるでしょう。投資機会や資金が限られる高校生をナッジの研究対象とした適切性にも疑問が残りました。

アイデア賞

大学生の金融リテラシーと心理的動機に関する実証分析
出田隼也(中央大学)
審査コメント(一部抜粋)
近年の政策で推進されている金融経済教育において、見落とされているとも言える大学生向けの金融経済教育にフォーカスした着眼点は独自性があり、アイデア賞を授与いたします。
独自に大学生を対象としたアンケート調査を行い、大学生の金融リテラシーと心理的因子との関連を研究した点を評価いたします。心理的動機によるスクリーニングによる金融教育等は、実態の理解に基づいた提言でありました。
ただし、アンケート内容の記述が少なく、また、サンプル数に照らした属性分類の適切性や、質問内容と順序ロジスティック回帰分析の説明変数のつながりの記載がないことには、改善の余地が残ると思われました。
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