結果発表
2019/05/22 10:00

grape Award 2018 「心に響く」エッセイコンテスト

応募作品数:695点
受賞作品数:4点(佳作を除く)
主催:株式会社グレイプ

最優秀賞

夫に初めて恋をした
渡辺惠子
作品(一部抜粋)
あれは昨年の師走の出来事だった。大掃除も兼ねて断捨離をしようと、押し入れの中を片付けていると、四角い箱が目にとまった。

中身は、結婚前に私が夫に贈った、手編みのセーターだ。夫が袖を通さなくなってから、もう30年近くなる。

「これ、全然着てないのに、もう捨てようよ」
「あかんあかん。そのうち着るから」

私たちは同じ台詞を毎年のように繰り返していた。そして私があんまり執拗に言うと、夫はムキになった。
「何、言うてんの。僕のこと思うて一生懸命編んでくれたセーターやのに、捨てられるか!」

夫の言葉は、私の胸にズキンと突き刺さる。

私が夫と出会ったのは24歳の時だった。夫にときめきを感じるわけでもなく、かと言って嫌なところも見つからなかった。両親の強い勧めもあって、これが果たして恋愛感情と言えるものなのか確信できないまま、2人の交際はずるずると続いていた。

タカラレーベン賞

新しい「おともだち」
建内真由子
作品(一部抜粋)
麦わら帽子を被った娘の手を引いて建物の中に入ると、外の暑さとは打って変わって快適な涼しさに迎えられた。ここは老人福祉施設で、私の祖母が6年前から入所している。

祖母の姿を窓際のテーブル席に見つけ、私は娘とそこに歩み寄った。

「おばあちゃん、元気にしていた? ほら、今日もゆきを連れて来たよ。」

隣に座って声をかけるも、反応はない。祖母は重い認知症を患っていて、ここ数年はずっとこんな状態だ。何も話さないし、顔すら見てくれない。最後に言葉を発したのは5年前だ。自身を幼い子供だと思い込み、私のことを「おばさん」と呼んだ。

「今日は良い写真を持ってきたよ。ゆきちゃん、ひいおばあちゃんに『お写真どうぞ』して。」

私がそう促すと、2歳の娘が「ひいおばあちゃん、どーじょ」と言って、祖母の膝に写真を乗せた。過去の写真を見ることが認知症のリハビリに良いとどこかで聞いて、しばしば試みているのだ。

優秀賞

四人の子供のお弁当を作る
ミミのパパ
作品(一部抜粋)
長女が12歳、長男が2歳の時に、家内がガンで亡くなった。39歳だった。

私立の中学校に通う長女は、毎日弁当を持って行かねばならない。
葬儀が終わった翌日から、毎日の食事のほかに、娘のための弁当作りが始まった。

冷凍食品などはそれほどの種類がなかった時代で、小さな唐揚げやハンバーグをこしらえて、可愛い弁当箱に詰める。弁当箱の半分をおかずが占め、残りに白いご飯を詰めて、真ん中に梅干しを一つ。

毎日、変化をつけようと、様々な食材を試みた。肉団子や豚の生姜焼き、トンカツの隙間に、ほうれん草のゴマのおひたしや、カボチャの甘煮を詰める。卵焼きやオムレツを作ったり、シメジやエノキをオイスターソースで味付けしたりした。前の晩の、マグロの刺身の残りを醤油で焼いた。アイディアがない時は、少量の豚肉や牛肉を、市販のたれで焼いただけの手抜きの弁当も作った。小さいフライパンが三つも四つも必要だった。
大きな彼女
上林暁史
作品(一部抜粋)
僕の彼女は大きい。
170cmを超える身長、広い肩幅、太いお腹。控えめに言ってお相撲さんのように大柄な体形をしている。

声だって大きい。
ファミレスで笑うとお客さんが一斉に彼女に注目するほどだ。丸い顔をさらに丸めて顔全部を使って笑う。僕はその笑顔が好きだった。

痩せた方がいいと、彼女と知り合ったばかりの頃に言ったことがある。すると彼女は「わたしもそう思う!」と、元気よく叫んでお菓子を頬張った。僕は呆れ、すぐに笑ってしまった。

そんな彼女が3日もなにも食べなかった時がある。東日本大震災の時だ。

町は滅茶苦茶、すぐ近くまで津波がきていて、かなり危ないところだったと、後になって知った。

揺れが収まり、彼女に連絡をとると、「こっちは大丈夫!」と、いつもの元気な声で言った。その言葉を信じ、僕はひとまず両親のもとを訪れ、家の片付けを手伝った。

粗方片付けが済むと、僕は彼女の家に向かった。

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