結果発表
2025/05/23 10:00

CAF賞 2024《高校生・学生限定》

主催:公益財団法人現代芸術振興財団

受賞作品数:5点

最優秀賞

言葉の部屋
鈴木 晴絵(女子美術大学大学院)
言葉の部屋写真:木奥惠三
審査コメント(一部抜粋)
鈴木のお兄さんは言語に障害を抱えている。こうした背景のなか、家族あるいは兄妹の関係の中で鈴木が向き合ってきたリアリティを作品としてどのように昇華するかに、鈴木は日々取り組んでいる。審査員一同、その切実さや、当事者ゆえの葛藤に心を打たれたというのが大きかった。しかし、こうした彼女のアイデンティティのみが今回の受賞に至った理由ではない。テーマがいかに版画という技法と関わっているかが非常に大事な点であると考える。たとえば何枚も紙が折り重なっている作品には、風呂桶が繰り返し描かれている。繰り返し桶に水を貯めて頭からかぶる兄の行為をテーマにしているとのこと。それは反復された行為を描いているのだと思うが、この行為における反復と差異とはまさに版画という技法と重なっている。さらに、これだけ表現が多様化している中で、版画あるいは平面作品とは、ややマイナーな位置に置かれてしまう現状がある。(桝田倫広)

優秀賞

Flip the paper near the chin
大和 楓(金沢美術工芸大学)
Flip the paper near the chin写真:木奥惠三
審査コメント(一部抜粋)
大和の作品は木製の構造物と新聞で構成されている。この構造物はキャスターで引き回すことができるようになっており、指示に従うと自然にカチャーシーという沖縄の踊りを踊ることができるようになるという仕掛けになっている。ユーモラスで楽しげなパフォーマンス的要素を含んだ仕掛けが作品の全体像として見える。
この作品の肝要な部分として「新聞」の存在がある。新聞には大和が取材した沖縄で今起きていることに関する記事や、沖縄戦で捕虜になった経験がある大和の亡くなられたおじいさんとの想像上のインタビューなどが書かれている。この新聞は、本展のため、あるいはこの作品のためだけ作られたものではなく、今までも大和が個人で定期発行しているものだ。(木村絵理子)

木村絵理子審査員賞

まもなくポイント・ネモに墜落する私たち
リー・ムユン(東京藝術大学大学院)
まもなくポイント・ネモに墜落する私たち写真:木奥惠三
審査コメント
リー・ムユンの作品は、旧ソ連崩壊時に宇宙にいた宇宙飛行士に着目して、宇宙にいる間に自国が崩壊する、宇宙に取り残された人として放浪する、という物語を起点としたSFの映像作品だ。それに対しリーは、個人の力ではどうにもできない、国から見捨てられてしまった存在として宇宙飛行士のことを捉えている。それは現代社会、あるいは歴史上のさまざまな局面で、大きな力によって阻害されてしまう、組織や枠組みから外れてしまった人の存在に光を当てようという試みだ。
現代的な問題に対して、作品としてどのようにアプローチするかというときに、彼女が選んだモチーフの面白さ、着眼点が素晴らしいと感じた。一方で、SFをモチーフにしながら現代について語る手法は、すでにさまざまなアーティストが実践をしている。今後リー自身の世界観を追求し、クオリティを上げ深めていくことで、より作品の発展が望めると感じ、期待を込めて審査員賞とした。(木村)

野路千晶審査員賞

Commons in a void
本間 悠暉(東京藝術大学大学院)
Commons in a void写真:木奥惠三
審査コメント
新しいドキュメンタリー映像という観点で本間の作品を選んだ。昨今はさまざまなデジタル技術が台頭し、翻って「私たち人間は何者であり、どう生きるべきなのか」というあり方を問われる時代になってきた。VRチャットの空間は参加者がアバターを選び、自分自身、あるいは違う人間として、自由な時間を過ごす空間だが、その空間にいる人間は何者なのかという、アバターの下にある人間性に本間はフォーカスしている。その視点と、素を炙り出すようなドキュメンタリータッチの関わり方が新鮮で面白いと思った。本作はVRチャットそのものを知っている鑑賞者は理解しやすいが、それらに親しみのない鑑賞者にも作品の意味を理解できる手がかりがあるとなお良い。そして作品に登場する人々の深淵を見つめるようなドキュメンタリー映像としての凄みが出るとより良いと感じた。(野路千晶)

桝田倫広審査員賞

いくつかの窓に繋がれた肉
森田 翔稀(東北芸術工科大学)
いくつかの窓に繋がれた肉写真:木奥惠三
審査コメント
森田の本作はバーチャルと現実の間を扱っている。まずセラミック作品を作ることから始め、そこから映像に展開していくとのこと。自分の手で作った三次元的なオブジェと映像における人のかたちというイメージが、どちらも等価に作られているというところが非常に興味深い。しかしながら、仮想空間における私たちの身体と、現実に存在する生身の身体との間に横たわる問題について、いま、世界中の多くの作家たちが取り組んでいる。非常に競争の激しい領域である。森田なりの表現をこれから追求してほしいという期待を込めて、本賞を差し上げたい。(桝田)
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