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2017/01/10 10:00
第12回 ダイワハウスコンペティション
建築・インテリア・エクステリア
応募作品数:165点
受賞作品数:16点
主催:大和ハウス工業株式会社
最優秀賞、大和ハウス工業賞
The hybrid of refuge and prospect
伊達一穂(東京藝術大学大学院)
プレゼンテーション(一部抜粋)
地理学者のジェイ・アプルトンは動物行動心理学に基づき「眺望 ─ 隠れ場理論」という仮説を提唱した。観察者が見ることを妨げられない場合を「眺望」、観察者が隠れることができる場合を「隠れ場」と呼び、姿を見せずに相手を見る、という欲望が、人間が風景を美しいと感じる大きな所以だと論じた。「眺望 ─ 隠れ場理論」の観点から現代の都市を見つめ直してみると、床面積とセキュリティの確保といった個人の「隠れ場」と、海への「眺望」を確保するため、町は必然的に高層マンションで埋め尽くされている。果たしてそのような環境は人間が都市に住まうことの快楽を感じられるような空間であるのだろうか。つまり、「眺望」と「隠れ場」が呼応しない環境ではなく、ふたつの組合せのバリエーションが都市に住むことをより豊かにするのではないか。敷地は再開発が進む神奈川県横浜市神奈川区子安地区。
…
審査コメント
自分が設計したものに住みたいか、潜みたいか、自信の本能的な暗い欲望からスタートして設計しているところに共感を覚えた。真の公共空間は、多くの意見を取り入れた最大公約数的な空間ではなく、ひとりにさせてくれる場所を見つけられる空間。この提案では、もともと存在していたクローズドコミュニティを考慮しながら、そのような空間をつくり出している。(堀部安嗣)
「眺望」と「隠れ場」のふたつの要素のせめぎ合いが都市をつくり出している、という視点が面白い。多くの人の意見を取り入れて設計するワークショップ型の建築が近年多くつくられているが、それらと対立するものではなく、包み込んでしまうような大きな可能性を感じる。自分の身体感覚に根差した設計を精密に行っており、それが開かれればもっとよくなる。(平田晃久)
優秀賞
まちのリビング ─ 小さな都市/大きな家に住むという快楽 ─
内田 遥、熊谷 雄、島田 潤
プレゼンテーション(抜粋)
家のような居心地のよい空間を都市の多様性で満たす。これが都市に住む人の欲望を満たす空間だと考えた。家のような居心地のよさ、都市の多様性、両者の空間性を満たすために「まちのリビング」を提案する。「まちのリビング」は衰退する商店街上部に人が住むことで、アーケード空間を公共福祉機能をもったオープンコモンスペースに転化していく計画。1階はオープンコモン、3階より上は改築を行い、個室の入る集合住宅にする。そして、2階を住民のみが利用できるクローズドコモンである「いえのリビング」とする。このようにして、「まちのリビング」と「いえのリビング」のふたつの施設がアーケードの下につくられ、ふたつの空間がアーケードという空間に再び息を吹き込む。「まちのリビング」は商店街の住民、周辺の住民、行政が三位一体となって成立し、分断された都市と住宅の関係に刺激を与える提案。
審査コメント
圧倒的なアーケード空間に魅力を感じて設計をスタートした、という所に好感がもてた。表現としては緻密だが、徹底的に突き抜けた快楽性や都市との繋がりがもっと見えたら、なおよかった。(堀部)
アーケード空間に「住みたい」という欲望からスタートしているのが面白い。非常によくできている提案。(平田)
タイトルが作品の魅力を端的に表している。発展性や商店の活性化までアイデアがあれば、より面白くなると思う。(南川陽信)
傘の中はつながる
志甫 景(東京藝術大学大学院)
プレゼンテーション(抜粋)
公園の緑が雨粒に濡れて青々しく見えることに生命力を感じたり、気になる女性が髪を結う姿に惚れ直したり、土や雨の匂いを感じ、雨音が生活音を消し、そして遠くの気配を感じさせてくれる。雨は日常をそんな感動に溢れる世界に変えてくれる。普段見えていなかったもの、身近なものに目を向けられるようになったとき、私たちの生活は快楽のある暮らしといえるのではないか。そんな雨による快楽の得られる傘のような住宅の提案。敷地は大通りに近いオフィスビルやマンション、駐車場によって大小さまざまなスケールの空間や通り道が存在する住宅街の一角。不透明加工が施された、雨によって透明度が変わるスキンの建築。いつ降るかわからない雨、雨が降ると傘は都市に繋がり快楽を促してくれる。再び訪れる快楽=雨がくることを待ち焦がれてしまう住宅の提案。
審査コメント
一般的にはあまり好まれない雨の日を楽しくする提案。雨によって透明度が変わるスキンによって住民も道行く人も楽しめる提案になっているのが面白い。(堀部)
「雨が好きだから、雨を楽しみたい」という特定の視点からスタートして、突き抜けた提案をしているのが面白い。(平田)
夢のある提案。描き込まれたドローイングが魅力的。実現可能性が気になる。(南川)
入選
Urbanized Neighborhood
樫村圭亮、岩国大貴
プレゼンテーション(抜粋)
人間は都市の中で自己の領域をつくることに快楽を感じる。たとえば、通りに面したカフェで休憩する、公園で演奏する、外で読書するなど。一方、住宅街では人口の増加に合わせて住宅が敷地いっぱいにつくられたため、そうした都市の快楽を享受できない。自己の領域しか存在しない閉鎖的な場所となっている。そこで、住宅街の中で自己の領域を感じるための空間として、住宅街と地面を開放する住宅を提案する。人口減少社会という背景により自分の生活に合った住み方として自宅の庭を開放したり、場所をシェアする感覚が広がってライフスタイルが変化している。そのような背景の中で地面を開放する住宅がまちに増えると、人びとの快楽がまちに広がっていく。
静かな都市に住む快楽 保育園建設反対の街
川口創史、山田美紀、山田文宏
プレゼンテーション(抜粋)
今から51年前の2017年、東京のある街で保育園建設の反対運動が激しく起こった。反対運動は過激化し、2018年に東京都は特別区として“静かな街に暮らす快楽区”を設けた。静かな街づくりをコンセプトに、保育園の新規建設の永久的な禁止、既存の保育園の段階的廃園、騒音規制の強化などを条例として定めた。境界線や道路から建物を離して窓は小さく道路側に視線が通らない位置に、庭に境界線から離して塀を立て、鳥の鳴き声がうるさいからすべての木を切り落とす。壁厚は最低50cm、二重サッシ、遮音カーテンの設置など周囲からの規制で建物の形は決まっていく。その結果、生み出される風景は何かに似ている。
トマス・モアの『ユートピア』以来、数々のユートピアあるいはディストピアが描かれてきた。現在のシェアハウスに見られるような共有の概念は500年前のユートピアの世界観と同じであるように、物語を考えることは現実と地続きであるのではないか。
都市へと根をはる私のすみか
野嶋淳平、川合 豊
プレゼンテーション(抜粋)
多くの要素が集まり、多様な経験を得ることができる環境をもつ都市という空間は、生まれた地を離れ、多様な背景をもつ人達が集まる場でもある。都市環境を求め、地方から上京した「わたし」という存在は都市に身を置くことで「これまでのわたし」から「これからのわたし」をつくっていく。都市に住む快楽とは、都市に住み、環境の中で成長を実感するわたしを探す喜びだと考えた。わたしを探す場所として商店街を設定する。商店街は地域コミュニティの中心として発展した商業形態。しかし、生活形態の変化により空き店舗やシャッター通りに変化しており、多くの商店街が閑散としている。そこで、商業形態としての商店街から居住形態としての住居街として変化させ、新たな価値を見出すことを提案する。わたしと都市を繋ぐ快楽のかたちとして街へとわたしを広げ、多くの人と都市に住む快楽を実現させていく。
佳作
浮世の苦楽は壁一重
瀬口果奈、安岡里紗
応募案(抜粋)
われわれが快楽を求めるのはいかなるときか。それは日々の生活でたまった苦しみから解放されたい時。ではどういった方法で快楽を得るかというと、それらは専ら買い物や旅行などで非日常を感じ取ることで得ようとされることが多い。非日常の快楽は一時的なものでしかない。都市に住む快楽を感じるには、苦を受け入れ、日常こそが快楽と認識することだ。楽と苦は相容れないが互いに近くに存在し、必要不可欠である。快楽を感じるにはまず苦を味わうことが必要になる。快楽を感じるための助けとなる、修行宿泊施設。非日常ではなく日常、一時的ではなく継続敵。それが快楽。
都市の裏側の私と家
宮田典和(東京大学大学院)
応募案(抜粋)
─ “都市は日常を飲み込んだ。さまざまなヒト、モノが行き交い、膨れ上がった都市空間は、常に成長し動き続けている。しかしそんな目まぐるしい都市空間にもまるで時間が止まったような異世界が存在するのだ。そしてそこは私しか知らない場所なのだ。” ─ 都市に住む快楽とは、そんな「自分だけの特別な居場所」を都市空間に「見出せること」だと感じた。それはただ外部に対して閉ざすことではなく、都市に開くことと、都市を閉ざすことの双方を跨ぐことでうまれる関係性だと考える。私はそんな都市の表と裏を移り変われる家を提案する。
都市にうまれるノスタルジア
田口周弥、橋本涼平
応募案(抜粋)
快楽とはヒトが感じるものである。ヒトとヒトが繋がり、感情を動かされたり、喜怒哀楽を共有することで生まれる快楽。また、ときとして懐かしさや思い出となり、よみがえる記憶から生まれる快楽。ここは都市に住んでいるにもかかわらず、人工物ではなくヒトとヒトによって賑わい、ヒトと生活を共にし、自然の移ろいや静けさを感じ、穏やかな時の流れる場所である。愛着を感じる場となり、いつしか懐かしさを感じるだろう。ヒトとヒトとの繋がりや穏やかな環境がヒトの感情を育み、そしていつしか思い出へと変わる今をつくり出す。
a man with a chimney
服部義行(東京大学大学院)
応募案(抜粋)
ここは大阪府北部に位置する、一見よくある郊外住宅エリアである。彼は、そんなエリアの中で、住宅開発前から細々と続く農家に生まれた。彼は、彼と彼をとりまく世界の “きょり”をはかり、彼自身の世界の地図をつくっていくことに快楽を覚える。それは、誰もが子供のころにもっていた、自分の世界が広がっていく探検のわくわく感を思い起こさせる。またそれは同時に、古来から人間が生き延びるために自分の領域を増やす活動をしてきたことを示唆している。きょりを計る物差しは、煙突のある彼の“うち”と農作業でつかうバスタブである。彼はときおり、バスタブをひきつれて出かけ、いろいろな場所にバスタブと“うち”との距離をはかる。そしてまた“うち”に帰っていく。誰にとってもそうであるように、彼にとって彼の“うち”は、都市に住み社会の中に生きる自分の精神的なよりどころである。
十字路のシェアハウス
廣瀬雄士郎(東京工業大学)
応募案(抜粋)
近年広がりつつあるシェアハウス。個人の領域の延長線上に共有部がある。シェアハウスの中では各住人が緩やかに繋がりをもつ。この繋がりを延長していけば、個人から街までが繋がっていくのではないか。敷地は自由が丘の閑静な住宅街。自由が丘は歩いていて楽しい街だが、1歩入った住宅街ではそれぞれの家は街に対して閉じている。若者4人が住むことを想定して十字路にシェアハウスをつくる。シェアハウスにおける各個人の緩やかな繋がりが延長され、各個人から街の人びとが緩やかに繋がる関係ができる。
3,000人のシェアハウス ~僕たちは、ほしいつながりだけほしい~
吉井大貴、鈴木翔大、小野竜也、古田大介、斉藤孝治
応募案(抜粋)
はたして僕たちは、本当に「都市に住んでいる」といえるのだろうか。都会にありふれたマンションは独立した個室の集積で人との繋がりがなくて寂しい。しかしシェアハウスの「繋がらなくてはならない」強迫的なコミュニティは僕たちには億劫だ。だから僕たちは都市やネットにコミュニティをつくり、「人が集まって暮らす快楽」を家の外に求めてきた。今の住宅と都市の境界線から「住む」の領域を広げてみる。外にあった都市の快楽を内包した住宅は他者の存在を許容し、「繋がり」に選択の余地を与えてくれる。
大きな都市の小さな隙間からみえるもの
穴瀬博一、妹尾圭悟
応募案(抜粋)
ビルが建ち並ぶ大きな都市。人びとは、常に時間に追われながら忙しなく動いている。そんな都市の中、人びとの最大の快楽となるのは、現実から遠く離れた、果てのない世界の中にいざなわれること。ここでは、ビルの間に“苔”が豊かに育つことができる空間をつくり出す。忙しなく、大きな都市とは対比的な“苔”が生み出すスケールや時間をもたない空間は、都市の中の人びとを現実から遠く離れた、果てのない世界にいざなってくれる。
窓辺屋ノふるまい
日野一貴、岡田 遼
応募案(抜粋)
都市は高密化し人やモノが雑多に集合する豊かさを形成する反面、人の生活環境を壊してきた。そんな不快な生活環境を編集し、新たな街のコモンスペースとなる街の窓【窓辺屋】を提案する。この建築が家と家の隙間に挿入されることで、街に心地よい住環境をつくり人の集まる場をつくる。時の重なりと共に輝き方を変え、その時々ちがう都市の快楽を街に与える建築となる。
添水の家
林原孝樹、國友拓郎
応募案(抜粋)
アブラハム・マズローは人間の欲求を5段階の階層に分け自己実現理論を提示する。このヒエラルキーは低次の欲求と高次の欲求に分けられ、低いものから段階的に欲求を満たすことで次の欲求が出てくるという理論である。しかし、現代の都市での生活においては、低次の欲求(安全の欲求、承認の欲求、社会的欲求)は十分すぎるほどに満たされている。私たちはどこかで、心の片隅では安心に溺れているのかもしれない。私は、その安心を脅かすことに快楽を求めている。そこで、低次の欲求を脅かす建築を考える。
見えない海にダイブする
藤原麻実、鈴木栄三郎、前川朋子
応募案(抜粋)
普段建物の中で生活する私たちは、たとえ日常的に100mの高さで過ごしていても、東京という都市のもつ「高さ」を実感することはできない。しかし、屋上に立ってみると、そこに水深100mの深い溝があることに気づくかもしれない。地面から見上げるだけでは感じられない、都市の「深さ」を実感することのできる装置を提案する。ビルの裏側の面を繋ぐように、布をレイヤー状に重ねていくことで水面が現れる。このビルの人びとが背中合わせだった空間にダイブしていくことで、この場所は、ダイバーたちを繋げる「海」となる。
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