結果発表
2025/03/17 10:00

CLT DESIGN AWARD 2024 ─ 設計コンテスト ─

主催:一般社団法人日本CLT協会

応募作品数:139点
受賞作品数:6点

農林水産大臣賞

城下町に建つ「暮らし」と「観光」を結ぶ図書館
指原 豊・指原香菜子(株式会社浦野設計)
城下町に建つ「暮らし」と「観光」を結ぶ図書館
作品コンセプト(一部抜粋)
国宝犬山城の城下町、観光のメインストリートである本町通に面して、市民も観光客も利用できる市立図書館の分館をつくる計画である。読書に最適な自然光環境をCLTでつくることを考えた。CLTを組み合わせたトラス形状の梁を連続させて切妻屋根を構成した。CLT面に上からの自然光が反射して拡散され、柔らかな光となって室内に導かれる。内部は自然光が館内全体に行き届くように、吹抜を中心軸に空間を構成した。平面計画においては、つくるをテーマとした「スタジオ」、遊びながら本にふれ合える「キッズライブラリ」、カフェやレファレンス、地元の情報を発信する「情報交換エリア」を一体空間の中に配置し、本だけではないさまざまな「情報」に出会える図書館となっている。城下町は古い町並みが残り多くの観光客で賑わう一方、市民の生活の場は城下町から離れつつある。
審査コメント(一部抜粋)
本作品は、犬山城の城下町・本町通りにエントランスを構え、図書館を経由して裏通りへ抜けられる設計が特徴です。建築が街の「道」として機能する空間構成を実現し、地域とのつながりを意識した設計が高く評価されました。また、人々の交流が感じられる伝統的な街並みに馴染むデザインや、CLTを活用したトラス構造の屋根にも注目を集めました。特に、トラスを少しずつずらしながら構成することで、光を効果的に取り込む工夫は建築的な発見として興味深い点です。さらに、天井にCLTの良さを活かし、自然光を取り入れながら明るく軽やかな空間を演出する設計や、CLTの壁柱を用いた多用途空間の創出も高く評価されました。構造的な補強や防火設計の見直しを行うことで、より完成度の高い建築へと発展する可能性を秘めた作品です。

国土交通大臣賞

未来を育む知の森
佐藤俊文(佐藤俊文建築設計事務所)、千葉 遥(アトリエ ユルリ)
未来を育む知の森
作品コンセプト(一部抜粋)
本計画は、少子高齢化や中心市街地の空洞化が課題となっている宮城県白石市における図書館と情報センターを再構築するものです。準耐火構造の一般図書館棟と児童図書館棟、それを繋ぐ渡り廊下で構成し、多世代が学び交流を深める新たな空間を形成します。1階は5.4mグリッドに配置されたCLT壁が「知の森」を形成し、巡りながら発見・学び、リラックスするきっかけを提供。2階は3.6mグリッドの架構にトップライトを組み込み、柔らかな採光を確保します。上下で異なるスパンを採用することで、縦使いCLTの「幹」と横使いCLTの「枝葉」を感じる森のような空間を創出しました。外周はカーテンウォールとし、外からも木質感が伝わる構成としています。さらに燃え代設計や天井材を準不燃材で施工し内装制限緩和を適用すること等で、CLTが被覆されずに安全性と意匠性を両立しました。
審査コメント(一部抜粋)
本作品は、木材の特性を活かしたシンプルで洗練されたデザインが光る設計となっています。特に、CLTを素直に用いながらも、建築としての存在感を引き立たせる工夫が評価されました。「みんなの広場」を中心に、さまざまな図書を媒介として多様な空間が設計されており、子どもと大人が共に本に親しみ、成長していく場としての工夫が随所に見られます。また、CLTを板として使うのか、格子梁にするのかといった選択肢がある中で、王道の使い方をストレートに実践し、現実的な設計へと落とし込んだ点も高く評価されました。シンプルな造形でありながら、木質感を際立たせる工夫が施され、木の温かみを最大限に活かした空間となっています。さらに、本作品では準防火地域での設計を意識し、2棟に分けてボリュームを調整することで防火規制に対応している点も評価されました。

環境大臣賞

大屋根の図書館
藤井理央(株式会社日建設計)
大屋根の図書館
作品コンセプト(一部抜粋)
図書館は「まちの憩いの場」である。実際に「まちの憩いの場」となっている図書館は、本の閲覧や貸し出しのみにとどまらず人々が気軽に立ち寄り、交流を育む場となっている。本提案でも「まちの憩いの場」となる図書館を目指し、まちの機能を集約した多機能型の図書館を計画した。多機能でありながら、それぞれの活動が独立して完結するのではなく、交差し、緩やかに影響し合うことで多層的な場の広がりを生み出すことを考えた。空間構成としては、建物の機能を四つに分類し、適切なボリュームを設定する。各ボリュームに角度を与え、中心性を持たせることで中心に向かって活動が滲み出し交差する構成とした。各ボリュームはCLT架構の大屋根で包み込み、建物全体を緩やかにつなぐ。大屋根をCLTで構成することで荷重を軽減しつつ、優れた曲げ強度を活かし大スパンを実現する。また、柱梁は鉄骨とし、スパンを飛ばすことで開放的な室内空間を形成する。
審査コメント(一部抜粋)
本作品は、屋根の美しい形状と光の演出が際立つ、洗練された設計が魅力です。直射日光を適度に遮りながらも、柔らかな間接光を空間全体に広げる工夫が施されており、図書館空間との調和が高く評価されました。建物全体は、角度の異なる四つの空間を組み合わせた構造となっており、中心性を生み出しながら、人々の交流を促す空間を形成しています。さらに、フレキシブルな空間構成により、歩くごとに異なる景色が広がり、人と本との出会いを促すデザインも魅力的です。また、本作品はイベントホールを備えた耐火建築物として設計され、鉄骨架構とCLT耐震壁を組み合わせた構造を提案している点が評価されました。加えて、「ペロブスカイト太陽電池」の活用が企画されており、環境面への配慮という点でも興味深い試みとなっています。

日本CLT協会賞

図書の森を漂う ─ “CLT積層柱”と“CLT耐力棚”でつくる図書空間 ─
吉田京平(ビルディングランドスケープ)
図書の森を漂う ─ “CLT積層柱”と“CLT耐力棚”でつくる図書空間 ─
作品コンセプト(一部抜粋)
大木のような柱が林立する空間の中で、みんながお気に入りの本と居場所を求めて漂う森のような図書館を提案しました。CLTを平らに積み上げてつくる“CLT積層柱”は、燃えしろの外周に「手入れしろ」と呼ぶ余地の層を持ち、この層が机やベンチ、かまくらのような居場所を形成します。さらには柱の表面をみんなで磨いてメンテナンスしていくことで、柱や空間への愛着をもたらします。薄物CLTを格子状に組み上げてつくる“CLT耐力棚”は本棚かつ耐震壁として機能し、間仕切りのように建物全体へ配置して空間を緩やかに分節させます。敷地の近隣には町役場や駅、保育園や小中学校が揃うこともあり、誰もが気軽に立ち寄れる憩いの場として、「本を読む」という体験を最大限楽しむための多様な居場所をつくり出します。
審査コメント(一部抜粋)
本作品は、CLTならではの自由な造形性を活かした設計が特徴的です。特に、図書館内に林立する木の幹を想起させるダイナミックな柱が印象的で、単なる構造材の役割を超えたデザイン性の高い提案となっています。また、柱の躯体部分の外側に燃えしろ、さらにその外側に「手入れしろ」を設けることで、削ることでさらなる造形の可能性を持たせる工夫が施されています。これにより、将来的な変化にも対応できる柔軟な空間となっており、これまでにない斬新な提案がおもしろいと評価されました。さらに、柱の周囲には、本棚と耐震壁の機能を兼ね備えた「CLT耐力棚」が配置されており、構造と空間のメリハリを活かした設計にも注目が集まりました。加えて、本作品の発想は、カーボンクレジットの社会的な意義や持続可能な建築のあり方を考える上でも興味深いものであると注目されました。
本を通して市民がつながる「まちづくりシェアライブラリー」
瀬川康秀(一級建築士事務所アーキショップ)
本を通して市民がつながる「まちづくりシェアライブラリー」
作品コンセプト
想定した敷地は、私の郷里である青森県十和田市内の商店街の一角にあり、現況は駐車場になっている。商店街は空き店舗、空地が目立ついわゆるシャッター街でかつての賑わいはない。市街地を活性化するために、市の構想の一つに西沢立衛氏設計の十和田市現代美術館などの公共建物や通りを“市民が歩いて楽しめる”街づくりの創造に取り組んでいる。提案するライブラリーは、安藤忠雄氏設計の十和田市民図書館の分館として、市民が持ち寄った本を蔵書にして貸し出しをする“シェアライブラリー”である。ハの字に配置した壁パネルと勾配した屋根パネルが、シェアライブラリーの内外にリズム感を生み出している。市民は街の散策中に立ち寄り、シェアボックスユニットをランダムに配置したシェアライブラリーの中を、自由に回遊しながら気に入った本を探して楽しむ。このシェアライブラリーに本を通して、人と人が繋がり、街の活力再生への期待と思いを込めた。
審査コメント
本作品は、大版のCLTをシンプルに活用し、自由で開放的な図書館空間を創出している点が高く評価されました。人々がさまざまな場所を行き交い、自然と交流が生まれる空間設計となっており、CLTの基本的な使い方を踏襲しながらも、コンセプチュアルな表現を加えた点が注目されました。また、本棚を固定の構造体ではなく、家具のように移動可能な要素として扱うことで、利用者が自由にレイアウトを変更できる柔軟性を備えている点も評価されました。さらに、本作品の立地である十和田市の街並みとの調和も大きなポイントとなりました。十和田市は、広い空とグリッド状の街路が特徴的な街であり、本作品の開放的な構成がその環境とよく馴染んでいます。特に、大きな開口部を街に対して開くことで、人々が自然に立ち寄りたくなる仕掛けが魅力的であり、街との関係性を意識した優れた提案として評価されました。

日本CLT協会賞学生賞

繋がりの余白 ─ 自分の好きを投影するCLTパネル ─
三須隆大(日本大学大学院 生産工学研究科 建築工学専攻)
繋がりの余白 ─ 自分の好きを投影するCLTパネル ─
作品コンセプト(一部抜粋)
下北沢の人々は路地の余白を自由に使い、街を彩り、居場所を作っている。このシモキタならではの無言のコミュニケーションは誰をも否定しないみんなの居場所になるポテンシャルがある。CLTの好きなところをくり抜けるという性質を活かし400グリッド上で余白となるパネルを設ける。空間を構成する構造壁でありながら家具のような小さなスケールでも使われる。おすすめの本を置いたり、花屋で植栽を買ってみんなで育てたり。自分の好きを投影できるパネルは図書館を自分の愛着を持った居場所にする。それは、建材に触れる行為となりCLTに触れる機会をつくる。CLTパネルを介した振る舞いがシモキタならではのコミュニケーションを生む。身体スケールの小さな空間が継続的に表れることで滞在の魅力を蒔くと同時に、連なる壁と開口からの景色が次のシーンへの期待を高める。
審査コメント(一部抜粋)
本作品は、CLTの大版パネルに自由な開口を設けることで、光を巧みに取り入れ、多様な空間を生み出す設計が際立つ作品です。CLTパネルと柱の組み合わせにより、空間全体のバランスが取れ、歩くたびに異なる景色が広がる楽しさを備えたデザインが注目されました。また、X方向とY方向に開口を組み合わせることで、視線が抜けたり、異なる空間がつながったりする仕掛けが施されており、実際に歩くことで新たな発見が生まれる構成となっています。これにより、図書館としての機能を超え、さまざまな用途に対応できるフレキシブルな空間が創り出されています。さらに、くり抜いたパーツを本棚として再利用するユニークなアイデアも評価されており、CLTの自由な加工性を活かしながら、多用途に展開可能な柔軟な空間を提案しています。
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