結果発表
2020/04/08 10:00

第25回 学生CGコンテスト《学生限定》

応募作品数:330点
受賞作品数:22点(アート部門:11点/エンターテインメント部門:11点/パートナー賞・ナレッジ賞:16点)
主催:CG-ARTS(公益財団法人画像情報教育振興協会)
※ここでは、各部門の最優秀賞・優秀賞をご紹介します
アート部門

最優秀賞

MOWB
ゆはらかずき(東京藝術大学)
°
作品コメント
「MOWB」は、デジタルドローイングによるVRアニメーション作品である。鑑賞者はヘッドマウントディスプレイを通してアニメーションを体験することができる。VRの閉鎖的な空間を母親の胎内として描き、胎内回帰的な物語を紡ぎだした。一本のへその緒でつながれた親子は、命のやり取りをしながら、母は吸収され、娘は母の命を引き継いで成長していく。すべてを引き継ぎ、母と一体になった娘は、母になろうと決意をするのだった。
審査コメント
360°のアニメーションという新奇な表現手法自体にシンプルな驚きがあり、それだけでもとても興味深かったが、そもそも作品の世界観自体がすばらしく魅惑的であった。統一感のある独特なヴィジュアルスタイルが確立されており、非常に完成度が高い。別次元に存在するような、幻惑的な世界に引き込まれた。サウンドデザインのクオリティも素晴らしく、この作品の深遠な雰囲気を作り出すことに成功している。表現手法、世界観とテーマ、制作技術のすべてが相互に高いレベルで組み合わさったとても興味深い作品だと感じた。(大塚康弘)

優秀賞

cyack
長嶋海里(国立音楽大学)
作品コメント
macOSのスピーチ機能を駆使して音を発する2台のラップトップが、2人の「パフォーマー」として舞台に立つ。それぞれの「パフォーマー」は、受け取った“文字列”を、指定された“レート”、“ピッチ”、“ボリューム”、“言語(話者)”で発音する。スピーチ機能の特性や言語による音響的差異の意図的な増幅により、発音される単語や文章が持つ意味・内容が埋没し、音のテクスチュアや音楽的な要素が浮かび上がってくることで、鑑賞者は言葉と音楽の認識の境目を漂う。
審査コメント
本作品は、MacOSに搭載されているスピーチ機能のパラメータを巧みに制御することで、コンピュータによる発話音声から「音楽」を生成する実験的なパフォーマンス作品。明かりに照らされた2台のモニタに口が並ぶ様や、背後のスクリーンに投影される映像など、視覚的な演出も、世界観の提示と共にこの実験効果を引き立てている。特別なツールに頼らず一般的に導入されている機能を使った上で、人間の知覚をうまく利用しながら豊かな表現へと仕上げている点が素晴らしい。サイト/コンテクストスペシフィックなパフォーマンスとして、あるいはインスタレーション作品として、さらに発展の可能性がありそうで、今後に強く期待したい。(筧 康明)
Translucent Objects
平瀬ミキ(情報科学芸術大学院大学)
作品コメント
本作品はメディアを通してモノを見ることを再考させるための、映像表現を用いたメディア空間における彫刻作品である。一つの出来事を、表と裏の二つの方向から同時撮影した映像を合成する手法によって、実際の撮影空間には無い物体を作り出し、現在の人間の身体構造では同時に捉えることができない表裏を見る光景を表現した。今日のメディア環境において、一つのモノやコトを多様にとらえる視覚の拡張は進展しており、その一方で正確な位置関係や、本来の質感はとらえきれなくなっている。本来のものとは異なる情報媒体を通してものごとを知ることが日常となり、膨大な情報が氾濫する一方で、そのものの真偽がわからない中で、それがどうあるかに考えを至らせること、また、自身の目でみるものを選び取ることを本作品は要請する。シンプルな手法がつくりだす複雑な経験によって、知覚と情報のバランス、メディアを通して対象をとらえることの意味を問いかける。
審査コメント
他者の視点を自分のものとして経験することはアートの根源的なテーマですが、これを自分の視点と相対化させながら動きの中で連続して見せる構成に新鮮な驚きを感じました。彫刻という複数の視点の統合として経験されるメディアについて、また人間の認知の構造についての言及でもあり、多層的な読込を可能にします。さらには、作品世界を離れて、ジェンダーや人種、世界情勢など広く社会的な事象へと代入可能な幅も持っており、個と複数性についての問題提起的な作品としても高く評価したいと思います。(藪前知子)
鬼とやなり
副島しのぶ(東京藝術大学)
作品コメント
昔から、この国ではどこの家にも妖怪家鳴りが住んでいた。しかし、徐々に衰退していく木材建築の家々には、もはや耳の遠い老人たちしか住んでおらず、家鳴りの声も聞こえない。家鳴りは時々、それを寂しく思う。本作の主人公は、日本の民間伝承に登場する「鳴家(やなり)」と呼ばれる数寸程度の妖怪で、昔から時々家の中で何やら不可思議な軋みなどの音が聞こえるのは、住民を驚かせようとする彼らの仕業であると信じられてきた。日本では、「家鳴り」しかり、古くから自分たちの住む家には見えない影の部分があることを信じて恐れ、それらを「鬼」と呼び、日常から遠いものとした。今では、この文化は廃れつつあり、かつて「鬼」を感じていた住民たちは年老い、明るい現代社会の影として、鬼の側に立場が逆転して生きているかのようだ。本作は、現代の社会から取り残されていく老人と民間伝承の生き物の姿を描いた映像作品である。
審査コメント
自然光を活かした撮影、すごく雰囲気が出ていて上手く撮れてます。
コマ撮り素材を自然光(っぽく?)仕上げるのは、相当ストイックな作業だったことでしょう。
人形造形も「祖母の家にあるモノ」で作られたかのような、ちゃんとした“意味のある”アートワーク設定で好きです。
間の取り方の編集も良いですね。
過去作も拝見しましたが、今作で良い意味で「毒気」や「敵意(?)」みたいなモノが減少して、達者になっている思います。
(※それでも、滲み出るエッセンスとして十分効いてますよ!)
今後のさらなるご活躍、期待しております!。(真壁成尚)
エンターテインメント部門

最優秀賞

ORBITS
OVERWORKS
曽根 麟、平屋孝樹、和田拓人、市原彰真、徐 一帆、呉 詩絵、呉 高宇
(HAL東京)
作品コメント
「パズルを解く楽しみ」をきちんと感じてほしいと考え作ったゲームです。ルールはシンプルですがちゃんと考えないとクリアできなくなっており、「ガチャガチャ操作していたらクリアできた」というパズルにあるまじきことがなるべく起きないよう作りました。ぜひ悩みながら先に進み、答えにたどり着いたときのアハ体験のような感覚を味わってほしい。
審査コメント
最優秀賞おめでとうございます!
ゲームデザインがシンプルでいながら奥が深く、全体的なクオリティがとても高い作品でした。
操作性、グラフィック、UI、サウンドすべてが一定の水準を上回っています。
特に成功したときの星のモーション、エフェクト、サウンドが心地よく、リプレイマインドを刺激して継続モチベーションもしっかり提供できていると思いました。
今年のコンテストでは頭一つ抜けた評価です。(市村龍太郎)

優秀賞

Awaken
猪瀬菜奈子、渡邊大和、倉吉辰ノ助
(日本工学院八王子専門学校)
作品コメント
静かで抽象的な世界観をコンセプトに、コマーシャル映像を意識して制作しました。
審査コメント
優秀賞おめでとうございます!
映像全体の質感、色味、空気感などとても上質です。
特に色使いは美しく、短い映像の中でしっかり目を引く演出・構成もできています。
高級ジュエリーとかのPVとしても使えるレベルです。(市村)
微睡みのヴェヴァラ
岡田章吾(東京藝術大学)
作品コメント
誰しも夢を抱き、時に破れ打ちひしがれ、どう生きていけばいいか分からなくなる。覚めない夢がないように人生は自分の思うようにばかりいくわけではなく時として抱えきれないほどの苦しみや悲しみに覆われる時もある。そんな中で忘れてしまいそうになるけれども、今まで自分が夢のためにしてきたこと、自分の人生を突き動かしてくれた何か、自分がしたことが誰かを笑顔に、幸せにしてきたことは確かにある。例え覚めてしまった夢のように、もうはっきりと思い出せなくとも確かにあった、否、未だ自分の中に確かに存在する“何か”に思いを馳せてみる、そんなテーマで描いた作品です。
審査コメント
夢を失いかけている少女がもう一度立ち直ろうとする、王道的なアニメーション作品ですが、クオリティが非常に高かったです。ストーリー構成、キャラクターデザイン、背景、エフェクト、BGMやSEのタイミング、声の演技も良かった。
10分もの長い尺に対してこれだけの手数を学生の段階で仕上げきる力量には素直に驚きました。
今後もこだわりを強く持った良いアニメーション作品を作っていってほしいです。(井口晃慶)
浴場の象
程 嘉琳(東京造形大学)
浴場の象
作品コメント
中国の90年代後期、住んでいた町に工場の浴場があった。そこで一匹の象と出会い、時代の変遷を経ると共に不思議な物語が展開していく。
審査コメント
とにかく、絵がとても魅力的です。
特に、色使いが独特で私は好きです。
子供の頃の不思議な記憶が、子供らしい“絵”によって語られるのも知的なアプローチで上手いです。
詩的なようで、何かの比喩のようで。読後感の残る美しい作品に仕上がってると思います。
各カットのアングルも、“絵”ならではなパースなのに、カット割として的確なのも面白いです。
細かい点を挙げるとすれば:字幕は、ナレーションの少し後に出現した方が雰囲気出ますよ。
(NA音声より先に出ちゃわない方が良い!)(真壁)
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