結果発表
2019/04/25 10:00

第25回 ユニオン造形デザイン賞公募

応募作品数:63点
受賞作品数:11点
主催:公益財団法人ユニオン造形文化財団
※ここでは、上位6点をご紹介します

優秀賞

十二隻の難民
砂田頼佳(東京大学 工学系研究科 建築学専攻)
十二隻の難民
作品コメント
海上油田掘削に用いられるプラットフォームである「オイルリグ」。船に曳航され現場に現れ、海上に巨大なトラスの脚で自立する姿は海上都市を思わせます。日本においても12基が保有されていますが、日本企業で唯一それらの操業を行っていた日本海洋掘削株式会社は2018年6月に事実上の経営破綻となり、オイルリグと事業従事者は苦境に直面しています。
本設計では、実在するオイルリグの図面を踏まえ、医療施設へのコンバージョンを試みています。この「日本のアジールフロッタン」の設計は、3種類の難民を救う役割を果たします。一つ、12基を適切に配置することにより、災害発生時に日本中の沿岸に24時間以内に医療拠点がいきわたる、避難民の支援。二つ、平時において離島の医療拠点や漁船の燃料中継地となり、孤立する地方の沿岸部集落を繋ぐ役割。三つ、現在受け入れ先を探す難民ともいえるオイルリグ群とそのオペレーター自身の受け皿となるという役割。
知をたどるクジラ
佐々木のぞみ(札幌市立大学 デザイン学部 デザイン学科 人間空間デザインコース)
共同制作者:石井桃子
知をたどるクジラ
作品コメント
日本には「出る杭は打たれる」という言葉がある。皆と同じであることに価値を持つ日本において、特異な才能を持つ人々は周囲の人から疎まれ、陸に自身の居場所を失う。
私達は今日の日本が抱える難民を、出る杭となってしまった研究者、芸術家たちと定義した。
大きなクジラが小さなオキアミを捕獲するように、海に浮かぶ避難所に杭たちは導かれてゆく。
陸地を離れることで様々な柵から開放された杭たちは研究に没頭していく。
この避難所はクジラを型取り、緩やかな大屋根で覆われている。この大屋根を支えるのが五つの大きな“コア”である。そのコアの中で研究者たちは活動し、その活動が海の外へと滲み出していく。
コアは船底までつきぬけ、甲板を堺目として上は研究棟、地下が生活空間と用途を分けて設計した。
ここで研究を重ねた杭たちはもう、打たれる弱い杭ではない。これからの日本の先頭を行く人となるだろう。
たゆたい、くっつく島
名畑碧哉
共同制作者:小野里紗
たゆたい、くっつく島
作品コメント
今現在の災害時における避難所の環境を見てみると、同じ規模の被害や同じ種類の災害はなく、全て異なっているにも関わらず、被災者が避難する避難所は画一的な環境しか提供されていない。そこで様々な災害に適したそれぞれの機能を持った島のような船が集まりくっつくことで、あらゆる災害パターンへ柔軟に対応できる避難所のあり方、また発災から月日が経ったその後の避難所のあり方も含め長期間どんな時でも私たちを助け支える避難所のあり方を提案する。
提案する避難所は3種類のRによって島同士のくっつき方を設定し、幾多もの島の繋がりをうむカタチとした。海の上をたゆたい、くっついたり離れたり、その時その時の環境(通常時、内陸部災害、沿岸部災害、大災害等)に応じてこの島のカタチや大きさを変える船はその時のその被災地、その地域のためのたった一つの避難所となる。

佳作A

Noah's Ark ~コンテナハウスが飛来する未来~
鏡 亮太(名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 芸術工学専攻 建築都市領域)
共同制作者:太田将司
Noah's Ark ~コンテナハウスが飛来する未来~
作品コメント
日本の仮設避難所にはプライバシーの問題やコミュニティ形成のための場所の不足など解決すべき問題が数多く存在します。そこで、SRC造の津波避難タワーおよびコンテナハウス加工場を全国の沿岸部に計画する。津波避難タワーにはあらかじめ地域の人が利用する公民館的な施設を計画することで立体的なオープンスペースなる。このタワーは“止まり木”として日常的には、地域住民の使う公民館的に機能します。そこに観光地化してホテルが不足した場合や住戸が不足した場合、震災が発生した時には、住戸用に加工されたコンテナがコンテナ加工場から“鳥のように”飛来して仮設集合住宅を形成します。公民館的な機能はそのまま集合住宅のコミュニティスペースやラウンジとなりこの建築に賑わいを生みます。この飛来するコンテナ群と津波避難タワーによって各地の沿岸部に集合住宅が生まれては消える新たな風景を創造します。
たゆたう
横山隼也(東京大学大学院 建築学専攻)
共同制作者:二上和也
たゆたう
作品コメント
日本は、度々大きな自然災害に見舞われる災害大国だと言える。
いつしか「自然」は我々の生活を脅かす存在とみなされ、それをいかに克服するかという奮闘の上に文明が築かれてきた。
しかし、そうした「自然」を押さえつけようとする取り組みは、より大きな災害によって覆されるのが常であり、「自然」を遠ざけた生活に息苦しさが生まれ始めている。
今の私たちには、「自然」に抗うのではなく、「自然」に身を任せるような体験が必要なのではないだろうか。日々の生活から一歩離れ、水面の上でただ時の流れを感じるような、たゆたう“避難所”を提案する。
この建築は、1枚の大きな布と、それを支える水面に浮いた柱によって構成される。波に揺られる柱と風に舞う布は、お互いに影響し合い、その隙間から光が差し込んで、空間は常に変化し続ける。
陸の箱舟 ─ 非常と日常を漂流する木造小屋 ─
高橋一稀(京都大学大学院 工学研究科 建築学専攻)
共同制作者:川上周造
陸の箱舟 ─ 非常と日常を漂流する木造小屋 ─
作品コメント
木造建築は元来日本のアジール・フロッタンであった。
ハレ(非常)もケ(日常)も包容するうえ、曳家によってその場所も変え得る。
ここ10年間でモノや情報の流動性が急増し、以前よりも日常・非常が混在している現代に、日本の国土を漂流する可動式の木造小屋を再提案する。
有り余る森林を背景に、小規模の林業家と大工で作ることのできる簡易的な木造小屋は、都市の建設需要の波に乗って陸地を漂流する。
非常とはもはや災害のみを指す言葉ではない。
失業、旅行、ビジネス、転居…あらゆる非常が身近にある。
日常から非常まで、グラデーショナルな需要に応じて臨機応変に場所を移し、その顔を何度も生まれかわらせる木造の可能性を提示する。
船湯 SEN-TO
今枝龍哉(株式会社梓設計)
共同制作者:後藤正太郎
船湯 SEN-TO
作品コメント
災害の発生により、被災した人々は、避難所で慣れない共同体での生活を強いられる。普段交流のない人々とのコミュニケーションや生活環境の質の低下は、大きな精神負荷となり、二次的、三次的な被害を招く。災害で冷えきった被災者の心に、温かい交流を促す避難所を計画したいと考えた。そこで、古くから交流の場として機能していた「共同浴場」を中心とした避難船を提案する。すり鉢状に配置した段床によって構成される浴槽は、湯量と段差によって、「足湯」、「半身浴」、「全身浴」、「寝風呂」、「休憩のための腰掛け」など、多様な入浴のふるまいが共存し一体の場を形成する。好みによって場を選んでいるうちに、同じ好みをもつ他人が現れる。他人はやがて顔なじみとなり、いつしか自然な交流がうまれる。希薄だった共同体の人々の関係も徐々に醸成されていく。
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