作品名 |
キッコーマン「キッコーマンしょうゆ」 |
制作者 |
末松久奈さん |
作品の選評 |
【よみがえる記憶】
今年の上位に残った応募作は傑作ぞろいだった。その中で群を抜いていたのが、最高賞となったキッコーマンしょうゆだ。思えば千数百点にもおよぶ予選の段階からすでに目に留まっていた。審査では徐々に点数が絞られていく。その過程で再び目の前に現れては惹きつけられた。その理由はなんだろう。
画面構成がいい。たっぷりとした余白と思ったら一面の雪。左下に黒いマントに黒い縞々のストッキング。そこに一点の赤。その赤い帽子の女の子のひょこひょこ歩く姿がなんとも愛らしい。そこから雪に残った足跡をたどると、キッコーマンのマークがあり、その下に「発売50周年。」と記されている。ここで、そうかこの不思議な女の子は、あの赤いキャップのしょうゆの瓶だったんだ!と気づく。つまり足跡はこの商品の50年の歩みを表していたんだとわかる。
絵本の1ページのようなこの写真を眺めていると、幼い頃の食卓の風景を思い出し、遠い記憶が蘇ってくる。また、キッコーマンしょうゆの、たくさんの人生に寄り添ってきた喜びが、謙虚さと誇りをもって伝わってくる……。この広告は言葉数が極端に少ない分、たくさんのことを思わせてくれるのだ。
「そこにあるものによって、そのむこうにあるものを伝える」ことが表現の力だ。こんな広告が実際に載ったらいいだろうなと思う。
葛西薫(アートディレクター) |
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