作品名
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『Transparent Theatre glass and the city』
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氏名
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福田泰之・NICHOLAS HELM(Helm Architects)
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コメント 他
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伝統的な劇場にみられる深い空間は、Transparent Theatre においては、ストリートシアターの様な浅い空間となる。 - とはいえ、散りばめられた一般的な劇場の空間要素 (形としてそれらはここでも表現されている) とストリート形態の間でストーリーは展開されていく。
この構成の中で、演劇 (様々な意味で時として‘箱’を全く必要としない芸術活動) は一つの空間に与えられる。その中では、ストリートシアターは一時的に包括され、解体された劇場と対峙することとなる。このハイブリッドな空間は、その開放性により既存の劇場に新しさを吹き込むとともに、ストリートシアターを一時的に所有することで、それをより豊かなものにするであろう。この意味では、Transparent Theatreは多義的で、遊動的である。-ここでガラスは、解体された形態をつなぎとめている。この劇場の透明性は、文字通りのガラスと、それにより解離を可能とされた個々の要素によって実現されている。
建物の形状とストリートステージによりもたらされる直線的な経験は、その中心軸に対し大きく開かれた、また同時にそれに影響を及ぼす両端のスペースにより変化をあたえられる。中心軸と各空間を繋ぐ斜めの軸線の交差は、この空間を一見よりはるかに複雑なものとする。これらの斜めの軸線による網は、通過する人々を絡みとどめる。‘網’- 一端ではゆがんだパースペクティブとして形状的に表現されている。各空間による大きなボリュームは、大河の‘たまり’の様にその中で起こる活動を抱擁する。しかし一方で、その大河の‘たまり’とは異なり、個々のボリュームは活発な相互関係を構築する。この空間はつまるところ多層的でありスライスされ、滞留と流動が同時に起こっている。一般的な劇場で起こるのは滞留のみである。平面的に円形ではないが、円形の断面を持ち、それは断片として表現されているが、形状としてあらためて強調されていない。伝統的な劇場の残像として、空間はある形状を有しているが、それを包含しているわけでもなく、厳密な容器でもない。この劇場は定常状態と変異の間を証明しているともいえる。Victor Turnerの言う“egalitarianism of the liminal passage”を提供している。
既存の劇場形態の要素ごとへの解体(それらの中心を走るプロムナードをまたぎ、互いにつながれている)は、形状的にアクアポリスの丘に建つ建築群の構成との相似として見られるかも知れない。散在する建築群の構成は、外に向けて非常な眺めを与えるだけでなく、周囲のランドスケープを引き込んでいる。ここでは制御された不均衡な形態を通し、都市が引き込まれ、劇場・演劇が外部へと押し出されていく。
この様な新しいアイデアを有する劇場においては、コントロールが実際に建物がどう機能するかの鍵を握る。劇場は収益を上げなければならない。ストリートシアターはいくつかの美術館にもあるように、寄付によって成り立っている。一般的に劇場は前もってチケットを発売する。ここでは、演劇空間の中の各部で発券することもできる。または、観客を、例えば色分けしたチケットでグループとして扱うこともできる。(一度に複数のパフォーマンスが行われる際には有益かも知れない)。広い観点で見てみると、これは社会とコミュニティーの劇場に対する財政的システム(援助、収支、収益)の変化を起こすであろう。コミュニティーと公共団体の劇場への関心も触発されるかもしれない。
Transparent Theatre は創造と想像の場である。ピーターブルックの言う‘空っぽの空間’ではなく、ガラスにより紡がれた‘未完成の空間’である。
Transparent Theatreにおいて、透明性は分割された建物群を紡ぐガラスによって実現されている。ガラスが自然光を取り入れる(そして内部の活動を外部へ導く)ために使用されている箇所では、次の2つが考慮されている。ディフューザーとして音を散乱させるために、不規則な面を持つように配慮されたガラスパネル壁。そして斬新な案として、音響ガラスブロックシステム。このガラスブロックは主に透明性を維持しつつ、音を吸収するために使用されるが、付属品を調整することで、音を共鳴させ、音場を調整する目的としても使用することもできる。このガラス壁は規格化されたガラスブロックからなり、さらなる研究・実験後、製品化することも可能であろう。
Transparent Theatreにおいて、劇場空間を包括するガラス(断熱ガラス、吸音ガラスブロックシステム)は、人口光と併用することのできる自然光を、その空間へと取り入れる。自然光は外部の‘現実’世界を劇場内部に呼び入れるとともに、日中の公演において劇場照明による電力の消費を、大幅に削減する。(一般的な劇場では、照明が光熱費の60―70%を占める)
しかし、建物の主な外壁の一部として、または自然光を取り込む目的として、もしくは透明性を得るためにガラスが使用されていない箇所がある。自然光や透明性が特に利益をもたらさない部分(例えばフライタワー、屋根の一部分)では、ガラスは発電、建物の自然換気をサポートする目的として使用されている。非常に大きな表面積を有し、開口部をもたないフライタワーブロックの南面壁では、保水性セラミックタイルとガラススキンで構成される壁面が、建物のナチュラルHVACシステムをサポートしている。このナチュラルHVACシステムには地力(サーマル ラビリンス)風、雨水、日光のすべてが使用されている。
この保水性セラミックタイルとガラススキンで構成される壁面は、冬季における暖気、夏季における冷気を提供する。また建物外部に対する環境面においても、窓のない大表面積の壁面を、都市温暖化の一要因とされるサーマルマスとなることを防いでいる。
この劇場の建設工法はフレーム工法を使用している。これは木造、鉄骨もしくはRC等であり、規格化されたリサイクル建材の壁面への使用を対象としている。またフレーム工法はパネル化された地方特有のマテリアルをフレーム自体へのインフィルとしての使用をも可能にする。例えば、解体された建物からのレンガや環境に優しい建材として使用され始めている。圧縮土(rammed earth)などがあげられる。 |
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