審査員総評
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原田真宏(MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO 共同主宰、建築家)
2回目となる流山グラフィックアワードの空間部門ですが、71点と増加した「数量」だけでなく、その「質」も高まってきているように感じています。美しい平面的なグラフィックであることに留まらない視点、例えば、隣接する高架の土木的構造体とFLAPSに挟まれるという「空間」、さらにその先にはGREEN PATHと新しく開業したANNEX2へと接続するという「都市構造」、そしてそこで得られる「経験」へと、デザインする対象意識が広がってきているように思われるのです。
例えばその拡張は、最優秀賞となった「What are you feeling?」では薄暗がりになりやすい環境にビビッドな原色を刺すことで生き生きとした空間へと転じつつ、さらにそこでSNS投稿用の写真を撮る行為までをデザインの射程として捉えていることに、優秀賞となった「四季が奏でる音楽団」では楽しげなグラフィックでありながら同時にGREEN PATHからANNEX2へ向かう歩行の誘導要素となっている点に、「森の地下を覗く窓」ではFLAPSの「山」のような性質を生かしてその地下を想像するという既存建築を利用した奥行きをもった提案となっていたことに、それぞれ現れていました。
グラフィックが街を豊かにする可能性が、空間的・都市的な視点を持つことでどんどん広がっているようです。この加速度からすると、来年の作品はどういうことになるのか? 早くも楽しみです。
河尻和佳子(流山市総合政策部 マーケティング課 課長)
流山市は、全国市の中で人口増加率が6年連続1位という、少子高齢時代には稀有な自治体です。中でも流山おおたかの森は、多くの賑わいが創出されています。
今後は、住む、訪れるだけでなく、ここで文化的な活動が生まれていくことが大切だと考えます。流山おおたかの森グラフィックアワードは、このエリアのグラフィックアートによるまちづくりの草分け的存在です。そして、昨年初の空間グラフィック部門が継続され、アートが香る空間がつくられることを嬉しく思います。
2年目ということで力作揃い。選考にはとても時間がかかりましたが、是非親子で、お友達と、もちろんお一人でも街なかアートを楽しみながら、流山も散策なさってください。
小池 貴(流山おおたかの森S・C 東神開発株式会社 千葉事業部長)
おかげ様で本グラフィックアワードは本年平面部門が4回目、空間部門は昨年に引き続き2回目の開催を迎えることができました。特に空間部門に関しましては、昨年から倍近い数の作品エントリーをいただきました。多くのご参加をいただきましたこと主催者として深く御礼申し上げます。
弊社は昨年度のFLAPS、アゼリアテラスに続きまして、本年6月にANNEX2、GREEN PATHを開業させていただきました。2回目となる今回の空間部門は、FLAPSからGREEN PATH、ANNEX2につながるストリートの壁面を彩る空間グラフィックを募集させていただきました。流山おおたかの森という街のイメージをしっかり捉えた個性的で、レベルの高い作品が非常に多く、審査がとても難しかったというのが正直な感想です。
その中で今回大賞に選ばれました「WHAT ARE YOU FEELING?」は、色使いも鮮明で、インパクトも強く見ているだけで、地域の皆さまの気持ちも明るくしてくれる素晴らしい作品であると感じました。
弊社は本年6月のANNEX2、GREEN PATHの開業をもってハード面の開発は一区切りを迎えました。今後はコミュニティとサスティナビリティをキーワードに、流山カルチャーの創造、SCとしての社会的価値の創出を通じてエリア全体の価値を高めるまちづくりに取り組み、流山市のさらなる発展に少しでも寄与していければと考えております。今後とも変わらぬご愛顧のほど宜しくお願い申し上げます。
特別審査員:中川興一(株式会社中川ケミカル 代表取締役社長)
テーマは、店舗のガラス面と連続する長さ9m弱に及ぶ壁面のデザインである。今回印象的だったのは、完成されたグラフィックそのものが一方的に強烈なメッセージを発するような作品というより、その作品に触れることで生まれたコミュニケーションによって初めて空間グラフィックが完成するような、そんな作品がじわじわと票を伸ばしていったことだ。優秀賞の2点は、おそらくその意味で最終的に選考に残った作品であり、どちらも立ち止まる人たちの間に笑顔のコミュニケーションが生まれることを予感させる。とりわけ大賞の「WHAT ARE YOU FEELING?」は、正に単純明快。作品の色々な顔の表情を真似しながらポーズする子どもたち(もしかしたら大人も)の姿が、きっとこの通路をより親しみやすく心地よい空間にしてくれるのではないかと思う。街の景色や空間をより魅力的なものにするために生まれたカッティングシートが、進化し続けている流山おおたかの森とどのように関わっていけるのか。楽しみは尽きない。
総括
今年で4年目を迎える、流山おおたかの森S・C グラフィックアワードは、多様なクリエイター・地域の方々との共創により、地域に文化的な土壌を育てる「まちづくり」をテーマとしてスタートしました。空間グラフィック部門は、この「まちづくり」としての特性をさらに発展させることを目指し、昨年に設立された部門となり、今年で2回目となります。受賞作品は、地域の建築空間へ実際に施工されることにより、まちの景観を形成する要素の一つとして取り込まれることから、より場所の特性を活かした「サイトスペシフィック」な視点が求められます。
今回は、2021年3月に開業した「流山おおたかの森S・C FLAPS」の側面部に位置し、まちの玄関口として賑わいの中心となる「森のまち広場」から、本年6月30日につくばエクスプレス高架下に開業したボタニカルパーク「GREEN PATH」への通路に面する作品を募集し、全71点の個性豊かな作品が集まりました。審査会では、三つの審査基準に加えて、「森のまち広場の賑わい」との連動性、「緑豊かな心地よい植栽空間」につながる空間としての特性を活かしたアイデアなど、単にグラフィックとしてのクオリティだけでなく、空間的な視点も重要な評価のポイントとなりました。
大賞として選ばれた作品は、2022年11月5日に実際に施工されますので、グラフィックの力が街にどのような変化を与えるのか、是非皆さんの目で確かめていただきたいと思います。
今後につきましても、本アワードを起点として、さまざまな形で地域とクリエイターとの接点を創出し、文化の土壌づくりに向けたさまざまな展開を模索してまいりますので、引き続きご注目いただけますと幸いです。
本アワードにご参加いただきましたすべての皆さまへ、心よりお礼申し上げます。