審査員総評
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原田真宏(MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO 共同主宰、建築家)
空間グラフィック部門ではFLAPS1F イベントスペースの公園側のガラス面を使った作品を募ったのですが、単に一つの優れたグラフィックであることに留まらず、光を受けた明るい樹木からなる駅前広場とのオーバーレイする風景として作品を捉えていたり、あるいは、そのグラフィックを自然光が透過もしくは遮蔽されて生じる光と影の現象を操作しようとする作品、さらにはグラフィックが誘発する人々の行為といった側面から発想するなど、平面を超え出た、空間的な提案が多くあり魅力を感じました。
街の方々が環境づくりに参画することで、街は良くなっていくものですから、その空間への積極的なアクセスに「流山おおたかの森」の未来は明るいな、と感じた次第です。受賞作品の実施によって、街や建築がどのように変わっていくのか、とても楽しみにしています。
河尻和佳子(流山市総合政策部 マーケティング課 課長)
流山市は人口増加率が全国の市の中で5年連続1位となっており、子どもの数も増えています。その中で、流山おおたかの森は、人と人をつなぐ場、賑わいが生まれる場として今後もますます盛り上がっていくことを期待しています。空間グラフィック部門は今回初でしたが、どれも街をよく調べてデザインを作り込まれたことが伝わり、レベルの高さに驚きました。アートの力で美しいまち、楽しいまちを造る大きな一歩になると思います。
小池 貴(流山おおたかの森S・C 東神開発株式会社 千葉事業部長)
まずは主催者といたしまして、新設であります空間グラフィック部門に多くのご参加をいただき、深く御礼申し上げます。弊社は、今年3月31日に流山おおたかの森S・Cの新館として、FLAPSという商業施設を開業させていただきましたが、今回は従来の平面グラフィック部門に加え、新たに流山おおたかの森を舞台に文化が芽吹く土壌を育てることを目指す中で、FLAPS1F イベントスペースのガラス面を彩る作品(カッティングシート)を募集させていただきました。初めての試みではありましたが、今回は空間、光など色々な要素を考慮したクオリティの高い作品が数多く、審査も大変難しいものになりました。
今回の大賞作品は葉っぱをモチーフにした大胆かつ明るい作品です。FLAPS1Fに装飾・展示させていただきますが、建物・広場とも溶け込み、コロナで閉塞感が漂う中、地域の皆さまの気持ちも明るくしてくれるものと信じております。
今後も引き続き、南口都市広場の改修事業でも連携をさせていただいた流山市と足並みを揃えながら、今まで以上に地域密着型のまちづくりを推進し、地域の更なる発展に寄与していければと考えております。今後とも変わらぬご愛顧のほど宜しくお願い申し上げます。
特別審査員:中川興一(株式会社中川ケミカル 代表取締役社長)
空間を意識することで、ガラス面を内と外から見たときの違いや、作品を通して見える景色とのオーバーラップなど、デザインが現場に掲出したときに作者が意図した効果を発揮するか、ということが一つの論点となった。大賞の「緑の道」は、一枚の葉っぱをウインドウ面からはみ出すほど拡大して配した大胆なデザイン。日差しを受けた大きな葉っぱがステンドグラスのように床に影を落としたり、外の木々や落ち葉とのコントラストを想像すると楽しい。
「Let's be Otaka!」は、絵が切れるサッシの部分をあえて活かしているのが面白い。親子がそこで撮影している姿が目に浮かぶ。全体としてバリエーションに富んだ見応えのある作品が並んだ。故に審査員の意見が割れた。それぞれの立場からなるほどと思える意見も出てきて、結果としてじっくり議論し受賞作品を決定する良い時間となった。
総括
今年3年目を迎える、流山おおたかの森S・C グラフィックアワードは、多様なクリエイター・地域の方々との共創により、地域に文化的な土壌を育てる「まちづくり」をテーマとしてスタートしました。空間グラフィック部門は、この「まちづくり」としての特性をさらに発展させることを目指し、今年新たに設立された新部門となります。受賞作品は、地域の建築空間へ実際に施工されることにより、まちの景観を形成する要素の一つとして取り込まれることから、より場所の特性を活かした「サイトスペシフィック」な視点が求められます。
今回は、今春に南口都市広場の改修と合わせて竣工し、駅前空間の新たな顔として注目を集める新館「FLAPS」の1F イベントスペースのガラス面を飾る空間グラフィック作品を募集し、全37点の個性豊かな作品が集まりました。審査会では、三つの審査基準に加えて、遠近で見た景観的な効果や、駅前広場に接するガラス面という場所の特性を活かしたアイデアなど、単にグラフィックとしてのクオリティだけでなく、空間的な視点も重要な評価のポイントとなりました。大賞として選ばれた作品は、2021年11月6日に実際に施工されますので、グラフィックの力が街にどのような変化を与えるのか、是非皆さんの目で確かめていただきたいと思います。
今後につきましても、本アワードを起点として、さまざまな形で地域とクリエイターとの接点を創出し、文化の土壌づくりに向けたさまざまな展開を模索してまいりますので、引き続きご注目いただけますと幸いです。
本アワードにご参加いただきましたすべての皆さまへ、心よりお礼申し上げます。