若手作家の登竜門「学生限定・立体アートコンペ AAC 2017」最終審査会レポート1 / 2 [PR]

若手作家の登竜門「AAC2017」最終審査会レポート
「アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション(AAC)」をご存じだろうか。不動産業のアーバネットコーポレーションが主催する学生限定の立体アートコンペで、2001年から毎年実施されている。

このコンペには2つの特色がある。1つは、実際のマンションに展示する作品を募集している点。最優秀作品はアーバネットコーポレーションが買い上げ、同社が開発したマンションのエントランスに恒久展示される。もう1つは学生限定という点。立体アートの美術賞は少なく学生が入賞する機会が限られるが、このコンペは学生限定なため若き才能にとって大きなチャンスだと言える。

この斬新なコンペは各方面から大きな関心を集め、17年目のいま、学生作家の登竜門的な存在に成長した。「登竜門」編集部はAAC2017の最終審査会を取材し、最優秀賞に挑んだ学生作家たちに話を聞いた。

秋晴れの10月23日、東京都内のマンション「AXAS代々木八幡アジールコート」にてAAC2017最終審査会が行われた。

7月3日に最終審査への進出が決定した3名の学生作家には、制作費(上限20万円)と設置場所の詳細資料が渡されている。彼らは約3ヶ月かけてアート作品を実制作し、同マンションへ搬入して最終審査に臨んだ。

AAC2017審査員

審査員は、東京オペラシティアートギャラリーのチーフ・キュレーターである堀元彰さん、彫刻家の三沢厚彦さん、「小山登美夫ギャラリー」代表の小山登美夫さん、アーバネットコーポレーション社長の服部信治さん。日本のアートシーンを牽引する方たちだ

審査では、アートがエントランスで輝くかどうかを厳しくチェックする。空間と作品がマッチするかはもちろん、耐久性や清掃の可否、作品保護の必要性など、恒久設置を見据えた現実的な視点も重要な審査ポイントになる。

”異質”を読み解く楽しさを「Heterogen」後藤宙

最初の発表者は、東京藝術大学大学院の後藤宙さん。本コンペには4回目の挑戦だ。

作品は鉄枠とポリエステル製の糸を用いたもの。タイトルにはラテン語で“異質”を表すheterosが与えられている

作品は鉄枠とポリエステル製の糸を用いたもの。タイトルにはラテン語で“異質”を表すheterosが与えられている

後藤さん曰く、作品は”異質さ”を重視したという。

「日常生活に突然現れた”異質”なものを目指して制作しました。お住まいの方が作品を見たとき、視覚から脳に入り込んでその人のシナプスの回路がガラッと変わってしまうようなものになればいいなと考えています。アート作品に違和感を覚え、そこから読み解く楽しさを感じてほしい」

作品が正面性の強いコンポジションなため、台座は角が正面に来るように設計して動きをつけたとのこと

作品が正面性の強いコンポジションなため、台座は角が正面に来るように設計して動きをつけたとのこと

会場のマンションは単身者やDINKS対象の物件で、エントランスもコンパクトだ。そこに置かれた彼の作品はとても大きく見え、狙い通りの異質さを放っていた。鉄フレームと糸が作る幾何学模様は、見るたびに異なる気付きをもたらす。

審査員も、作品の持つ見飽きない豊かな表情を高く評価した。また、共有空間へ恒久展示するという観点から、作品のメンテナンスに関する質問もなされた。どう掃除するか? 数年たって糸が緩んだり切れたりすることはあるか? その場合に張り替えはできるか? AACならではの質問だ。

都会のマンションに現れる自然「Waterfall」金俊来

二番手は京都市立芸術大学大学院で漆工を専攻する金俊来さん。2年前の同コンペでも最終審査に進んだが、最優秀賞は逃している。今回の作品「Waterfall」は漆に加えて螺鈿(らでん)の技法が用いられており、複雑な色味と華やかな輝きが特徴だ。

 色漆、絞漆といった漆技法と螺鈿が駆使された作品は、見る角度や光源よって色、テクスチャ感、輝きが大きく変わる

色漆、絞漆といった漆技法と螺鈿が駆使された作品は、見る角度や光源よって色、テクスチャ感、輝きが大きく変わる

金さんはテーマと技法について次のように語った。

「マンションエントランスという人工的な空間に自然を感じられる作品を入れたくて、『滝』をテーマにしました。多様な色の螺鈿により、滝に映る四季を表現しています。作品を通じ、自然が持つ多様な姿を入居者の方々にプレゼントしたいと思いました」

「螺鈿作品は研磨に細心の注意を要します。多くの時間と忍耐力が必要で、何日も作品とともに徹夜したことが記憶に残ります。大変でしたが、やりがいのある時間でした」

「台座に対して斜めに作品を置いたら、空間にアタックがかかって作品がいきるんじゃないかな」その場でひらめき、作品の向きを変える三沢審査員

「台座に対して斜めに作品を置いたら、空間にアタックがかかって作品がいきるんじゃないかな」その場でひらめき、作品の向きを変える三沢審査員

審査員は設置角度、高さ、照明などを細かく議論し、どうしたらこの場で作品が一番映えるか検討した。照明をスポットライトから自然光に変えると穏やかで自然な輝きが現れ、審査員一同が感嘆するシーンも。

住む人に寄り添う「Starting from white」土井彩香

最後の発表者は東京藝術大学大学院の土井さん。石の彫刻だ。

土井彩香 作品

モチーフは、何色にも染まる可能性を表す白、生活に近い布、「あなたに会えてよかった」「心からの尊敬」などの意味を持つ5本の白い薔薇、そして「無事帰る」にちなんだカエル

土井彩香 作品

彫り込まれたモチーフにはそれぞれメッセージが込められており、入居者に寄り添い、成長と無事を祈る気持ちが詰まった作品だ。

彼女の作品で特筆すべきは素材だ。純白の大理石で、ミケランジェロが好んだものと同種とのこと。土井さんのプレゼンでは、石材探しの苦労や形状の工夫が詳しく説明された。

「真っ白な石を探すのが大変でした。岐阜県の石材店や工房を訪ね、よいものが見つかったのは最終審査進出の決定から1か月後です。

また、石材は大変重いので、コンペ規定の100kg制限は悩ましかったです。重量制限の中でできるだけ大きく見え、おおらかな形を作ることが課題でした。モチーフにした布の皺や谷を彫りこむことで、高さを出しつつ軽くするよう工夫し、400kgの原石を80kgまで削りました」

審査でも石材の気品ある白さ、温もりを感じる作品の雰囲気に注目が集まった。彫刻家の審査員である三沢氏が仕上げ処理についてアドバイスすると、土井さんも「普段よりずっと制作期間が短かった。できれば改めて仕上げしたい」と語った。


三者三様のメッセージが込められた作品に、審査は難航。表彰式の場で、審査委員長の堀氏が「すべてが僅差だった」と講評した上で発表した最優秀賞は、金俊来さんの作品「Waterfall」だった。

AAC12017表彰式の集合写真

表彰式の集合写真。みな厳しい審査会を終えて晴れやかな表情だ。最前列に審査員4名、中列に入賞者3名、後列は入選者8名

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