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2019/11/15 15:20

【レポート】「第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」表彰式

【レポート】「第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」表彰式面ショット表彰状を手にしたグランプリ受賞者の歌代悟さん(左)、特別審査員の舟橋正剛さん(右)

10月11日、東京・赤坂で「第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション(12th SHACHIHATA New Product Design Competition)」の表彰式、およびトークショーが開催。会場では2次審査のために応募者が制作した模型も展示された。

このコンペは『しるし』が持つ可能性を広げるプロダクトや仕組みを公募するもの。1999年から2008年までシヤチハタ株式会社が開催し、10年の休止を経て、昨年より未来ものづくり振興会の主催のもと再開している。最高賞金300万円、受賞作品は商品化が検討されることに加え、審査員が喜多俊之さん・後藤陽次郎さん・中村勇吾さん・原研哉さん・深澤直人さんと、第一線で活躍し続けているクリエイター陣であることが大きな魅力だ。

表彰式には、審査員4名と、特別審査員で未来ものづくり振興会代表理事の舟橋正剛さん、『美術手帖』編集長の岩渕貞哉さんが参加した。
※喜多さんは交通事情により欠席

最優秀賞は「わたしのいろ」 機能と感性をあわせ持ったプロダクト

過去最多の応募作品778点の中から、グランプリに輝いたのは歌代悟さんの「わたしのいろ」。水彩画のように彩りがにじんだ朱肉で、押す人やその時々の押し方により異なる色でしるすことができる。従来の朱肉のように名前だけでなく、その一瞬の時間や気分や調子が色となってあらわれる、アイデンティファイ機能と感性をあわせ持った提案だ。

「第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」グランプリ作品「わたしのいろ」画像/歌代悟さん

グランプリ作品「わたしのいろ」展示模型。空や木漏れ日を思わせるカラーもあり、心を揺さぶられる。

歌代さんは空間ディスプレイを手掛ける企業でデザイナーをしており、受賞に際して「学生時代にプロダクトデザインを勉強していて同コンペに応募したこともあった。今は別分野のデザインをしていますが、その知見を入れてもう一度挑戦して受賞でき、今までしてきたことは間違いではなかったんだと実感しています」とコメント。

審査員の中村さんは「見た瞬間に、ハンコを押す自分を想像した。自分の“一回限り”を押すことを想起させる作品で、グランプリにふさわしいと思った」と作品を評価。後藤さんは、自身が手掛けているライフスタイルデザインの領域から「最近は暮らしの中にアートを取り入れようという動きがあり、アートの感覚が必要だと感じている。ハンコの中にもアートを取り入れようとするような提案が自然に感じた」と講評した。

また、準グランプリは石川和也さんの「JITSU-IN」と、米田隆浩さんの「Shachihata PAPER」。

「第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」準グランプリ 石川和也さんの「JITSU-IN」模型

左:準グランプリ「JITSU-IN」展示模型。商品模型にパネルを加え、提案内容を伝えている。右:「JITSU-IN」模型アップ。ラフな手書きサインが印章になる。

「JITSU-IN」は自身の手書きサインをオーダーメイド印鑑にするサービスの提案。石川さんは、ラフな手書きサインをハンコ化する作品の着想について「自分の性格は結構適当。既製品のハンコの『石川』はきれいな字体だけど、僕はこんなきれいに整った“石川”じゃないと思っていた」とユーモラスに語った。また、外国人旅行者にハンコ文化を体験してもらう意図もあるという。既存技術を利用した提案のため、審査員からは実現性の高さが評価された。

「第12回シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」準グランプリ 米田隆浩さんの「Shachihata PAPER」模型。朱肉の朱色で染め上げた紙を20センチ近く積み上げた。

準グランプリ「Shachihata PAPER」展示模型。20センチ近く積み上がった朱色の紙は、模型展示の中でも異彩を放ち、圧倒的な存在感があった。

「Shachihata PAPER」は、シヤチハタのアイデンティティともいえる朱肉の朱色を染めた、紙素材の提案だ。審査員の原さんは鮮烈な赤色の作品を前に、「この紙に何かをしるして人に渡す時は、相当な決意だろう。まさに強い気持ちをしるす瞬間をデザインしていると思う」とし、後藤さんは「過去、赤い紙はネガティブなものだったが、今『しあわせ』を記すことができる素材になればと思う」と商品化への期待を語った。

なお米田さんは第11回の同コンペでも特別審査員賞を受賞しており、受賞作「印影」は商品化されている。2年連続の受賞に、会場から驚きの声が上がった。

このほか各審査員賞が発表され、受賞者には審査員の印が押されたオリジナル表彰状が授与された。表彰状デザインは原研哉さんが担当。「印泥を練って印を押すのが趣味」という原さんの提案により、それぞれの審査員の好みに合わせた印鑑を作り、審査員5名が自ら1枚1枚、表彰状に押印した。『しるす』ということが印象的に表現された、世界にひとつしかない表彰状だ。

「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」表彰状のデザインを壇上で説明する原研哉さん

表彰状デザインについて説明する原さん

記念撮影の様子

賞状を手に記念撮影する受賞者と、審査員。受賞すると超豪華な審査員と時間、空間をともにし懇親できる。中村勇吾賞を受賞した渡辺雄大さんは「審査員のスーパースターがいらっしゃているのを見て、自分もそちら側に行けるように頑張りたいと励みになった」とコメントした。

全受賞作品は結果発表ページにて公開している。

模索を続ける「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」、次回の開催が決定

表彰式の場では、2020年の同コンペ開催も発表された。ただしテーマはまだ検討中だという。

トークショーでは、審査員がコンペの次の方向性を語り合った。審査員の深澤さんは「今回は『自分を記す』ということに主眼を置いたものが多かったと思うけど、シヤチハタは個人印以外に、銀行や郵便局などさまざまな施設でもたくさん使われている。自分を記すのは一部なので、もっと視点を広げていくと、さらにいろいろなことが考えられるのではないかな」と話し、特別審査員の舟橋さんも「私たちはハンコに限らずもっと壮大に、たとえば一人ひとりが自分のマークを持つことが共通な世界になればいいとさえ思っています。今後も皆さんのアイデアに期待しています」と想いを語った。

さらなる深みと広がりが期待できる、「シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション」。次回開催に向けて、今からアイデアを考えてみてはいかがだろうか。なお公式ホームページでも、表彰式の様子やトークショーの内容を公開している。

トークショーレポート(SNDC公式ホームページ)
https://sndc.design/talkshow

取材・文:猪瀬香織(JDN) 写真:5/7枚目 SNDC提供、ほか JDN

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