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2018/02/13 10:00

【レポート】2017年度東京ビジネスデザインアワード 最優秀賞は「ユーザーが生地をカスタマイズできるパターンシート」

受賞者の写真左奥:株式会社扶桑の富田成昭さん 右前:最優秀賞を受賞した榊原美歩さん

2月7日(水)、東京ミッドタウンにて2017年度東京ビジネスデザインアワードの提案最終審査が開催され、今年度の最優秀賞、優秀賞が決定した。

最優秀賞に輝いたのは株式会社GoodTheWhatの榊原美歩さんが提案した「ユーザーが生地をカスタマイズできるパターンシート」。葛飾区の株式会社扶桑「あらゆる生地素材にアイロン無しで貼れる『特殊転写技術』」を新たな自社製品に展開する提案だ。

また、優秀賞は「プログラミング思考×パズル。未来を広げる知育玩具。」(松岡湧紀・青井正仁・榛葉幸哉・西畠勇氣<クリエイティブチーム/電通アイソバー株式会社>、株式会社やのまん<台東区>)と「新しい機能性を持たせた『光る発泡スチロール』(榎本大輔・横山織恵<デザイナー/hitoe>、株式会社石山<墨田区>)の2組に贈られた。

2017年度東京ビジネスデザインアワード 受賞者集合写真

喜びあふれる受賞者と審査員の皆さん

東京都が着実に続けてきたビジネスマッチングコンペ

このアワードは東京都が主催し、日本デザイン振興会が企画運営を行う。東京都内のものづくり中小企業とデザイナーの協働による新ビジネス創出を目的としたマッチング事業だ。

まず都内のものづくり企業を対象に、企業独自の技術や素材を「テーマ」として募集し、デザイナーからその「テーマ」についてビジネス全体のデザイン提案を公募する。デザイナーからの優れた提案を「テーマ賞」として採択し、デザイナーの提案に基づいたビジネスの実現に向けて両者のマッチングとサポートが行われる。「テーマ賞」の受賞デザイナーは、最終審査会にてプレゼンテーションを行い、最優秀賞1組と優秀賞2組が決定する。

図表:東京ビジネスデザインアワードの流れ(出典:アワード公式ホームページ)

東京ビジネスデザインアワードの流れ(出典:アワード公式ホームページ)

2012年から開催しており今年で6回目。これまでの提案実現事例は10件を超える。応募提案は毎年レベルが上っているとのことだが、審査員でブランディングディレクターの澤田且成さんは、その中で差がつくポイントとして「どうしたらユーザーがハッピーになるか。ユーザーのことを考えられている作品は評価が高かった」と話す。

ユーザーに創造性をあたえる提案は、ユーザーと一緒に作られた

最優秀賞の「ユーザーが生地をカスタマイズできるパターンシート」は、あらゆる生地素材にアイロンなしで貼れる転写技術を活かしたオリジナル転写シートで、ユーザーが気軽にDIYやリメイクに活用できるツールのブランド提案。

最優秀賞のプレゼンボード

審査会場で、「登竜門」編集部もパターンシートを試用させてもらった。ポップなデザインパターンを思うまま布製品に貼って自分だけのプロダクトを作るのは、想像以上に楽しい! コインでこするだけで転写でき、貼ったら剥がれず熱や水にも強いとのこと。創業52年、あらゆる転写シールを製作してきた扶桑の技術力を実感する。

テーマ賞の決定から最終審査会まで1ヶ月半。非常に短期間だが、榊原さんと扶桑はプロトタイプを制作し、ワークショップを開いて参加者に使用感の意見をもらうなどして、ものづくりに必須のPDCAサイクル(Plan/計画、Do/実行、Check/評価、Act/改善)を2回実施してきた。ユーザー目線の提案を磨き、最終審査会で披露したのは3回目の“P”だという。審査ではこのプロセスも高く評価された。

表彰式の壇上で「まさか最優秀賞をとれるとは思っていなかった」と話し、驚きと喜びが混じった表情を見せた榊原さんは、「登竜門」のインタビューに次のように答えてくれた。

短期間でしたが、とても楽しかった! まとめられたのは周囲のおかげです。私がアイデアの発端を出したあと、ワークショップ参加者や自社内の皆がアイデアを持ち寄ってくれました。特にワークショップでは、新たなアイデアをたくさん得ました。主に子どもに試していただいたのですが、大人では考えつかない自由な配色で使ってくれたり。

一番の目標は商品化。今はまだ、シートをハサミで切って部分的に貼ろうとすると問題が出るので、解決して商品化したいです。ユーザーが自分でシートを切ったり貼ったりしてオリジナルパターンをデザインできるようになれば、利用シーンが大きく広がります。より多くの方に使っていただき、喜ぶ顔がみたいですね!

最終プレゼンテーションの様子

テーマを提供した扶桑は、転写シールの開発・製造を専門として50年あまりの下町企業。営業部主任の富田さんはアワード挑戦の理由を「自社商品の開発による『下請け企業からの脱却』」と説明し、榊原さんとのマッチングについてこう話す。

たくさんのデザイナーの方から提案いただき、中には奇抜なものもありましたが、榊原さんの提案にはおもしろさと実現性が両立していると思い選定しました。私たちの目標は自社商品を確立することなので、実現性を重視していたんです。

ここまで一緒に開発してきて、榊原さんの熱意には本当に感謝しています。販売イメージをふくらませるため年始に都内のLOFT店舗を見て回ったと聞き、びっくりしました。強い信頼関係を築き、製品も完成形にかなり近い段階まで作りこみができたので、これを無駄にせず確実に商品化したいと思っています

これまでも扶桑には、アイロンプリントのできない合成皮革製品や繊細な衣装に転写プリントしたいとの相談が寄せらてきたが、オーダーメイドだと割高になることが課題だったそうだ。パターンシートが商品化できれば、誰もが簡単にオリジナルパターンをデザインできるようになる。雑貨、文具、イベント、舞台衣装制作……様々なシーンでユーザーがDIYを楽しめるだろう。

富田さんによると、年内には完成形の「パターンシート」を展示会でお披露目、そして販売開始にこぎつけたいとのこと。私たちの制作意欲をかきたてる新ツールに出会える日は、近そうだ。

取材・文:猪瀬香織(JDN)

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