受賞者インタビュー
2016/12/12 17:01

【シェル美術賞受賞者インタビュ-】グランプリ-小川直樹 [PR]

【シェル美術賞受賞者インタビュ-】グランプリ-小川直樹
1956年に創設され、今年で60周年を迎えた“シェル美術賞”。主催は昭和シェル石油株式会社。40歳以下を対象とした若手作家による平面作品の公募展として、創設当初より完全な公募制で実施され、現在では「若手作家の登竜門」として広く知られている。過去には、赤瀬川原平、高松次郎、菅木志雄などの現代芸術家が受賞。美術団体展以外の独立した美術賞が無かった時代に「既存の権威にとらわれず、新人を発掘して自由に賞を与えたい」との思いから始まり、長年の功績が評価され、今年、公益社団法人企業メセナ協議会が主催するメセナアワード2016の優秀賞を受賞した。

そんな「シェル美術賞2016」の受賞作品展が、2016年12月7日(水)~12月19日(月)まで、国立新美術館で開催されている。総応募数791点の中から、選出された受賞作品8点に入選作品45点を加えた計53点の作品と“シェル美術賞 アーティスト・セレクション(SAS)2016”を展示。今回、グランプリを受賞された小川直樹さんから、シェル美術賞受賞の喜びと制作に対する思いを伺った。

【シェル美術賞受賞者インタビュ-】60周年特別賞(曽谷朝絵賞)-鈴木浩之 はこちら

自分の制作したものと他者を繋げる大規模な場である“シェル美術賞展”

-グランプリを受賞されて、どのようなお気持ちですか

小川直樹(以下、小川):自分の故郷で得たイメージから作品が現れ、その作品が私の日常から遠く離れたところで評価を受け、そして多くの方に鑑賞して頂ける機会を得た事に不思議な心持ちでおります。

小川直樹(1984年生まれ 兵庫県在住。成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス研究生修了)群馬青年ビエンナーレ2012 入選、損保ジャパン日本興亜美術賞FACE2016 審査員特別賞・オーディエンス賞

小川直樹(1984年生まれ 兵庫県在住。成安造形大学造形学部造形美術科洋画クラス研究生修了)
群馬青年ビエンナーレ2012 入選、損保ジャパン日本興亜美術賞FACE2016 審査員特別賞・オーディエンス賞

-シェル美術賞に応募しようと思ったきっかけを教えて下さい

小川:シェル美術賞展での展示は、私個人の展示ではとても出来ない集客力があります。自分の制作したものと他者を繋げる大規模な場として、とても魅力的な発表の場だと思いました。

-絵を書くことにどのように興味を持ち、今に至ったのかを教えて下さい

小川:小中高と運動部に所属していたので、本格的な美術活動には縁遠かったです。しかし、幼い頃に透明のビニール袋にマジックペンで絵を描いていたところ、それを幼稚園の先生に「自分の子どもにあげたいから、もっと描いて欲しい」と言われ、子ども心に嬉しかったのを記憶しています。当時、自由帳に絵を描くのも本当に好きで、ただ漠然と絵を描くなかで、自分の世界を作る感覚を幼いながらも感じていたのかもしれません。
高校の時、絵を描く道に進みたいという思いは子供の頃から続いていて、美術部の先生に頼み込んで基本的な技術を教えてもらいました。それから、なんとか大学に入り作品制作を続け、卒業した年に初個展を行いました。そこで初めて自分だけの作品で空間が出来上がり、それまでの漠然とした希望や見えない感覚を、ある種の形に現わせることを実感しました。

-作品製作において、どんな手法を用いていますか

小川:個人が持つ時間、その中で出会う光景や出来事の中で、その人だけが見つけることの出来る部分があると思います。近年の制作では、私の経験したものや、その時間の中で出会うモチーフ(水面・森・人間・記憶・夢など)が要素となっています。変な言い方ですが、極めて個人的な歴史を紡いでいくような行為ともいえます。共通認識としての世界の形ではなく、細かく枝別れしていく通路を歩き続けるように、外ではなく内へ向かって意識を広げてゆく。そして、そこから現れる孤独な想像性を繋ぐことで、魅力的な世界が立ち現れるような期待感を持って制作しています。

-画家として、大事にしていることはなんですか

小川:作品の世界が持つバランスを大切にしています。これが崩れるとただの仮想となる恐れがあります。だから、感覚的な嘘をつかないように気をつけています。

個人が持つ時間、その中で出会う光景や出来事の中で、その人だけが見つけることの出来る部分がある

「メモリアル」(第60回 シェル美術賞 グランプリ受賞作品)

「メモリアル」(第60回 シェル美術賞 グランプリ受賞作品)

-今作品のコンセプトについてお教えください

小川:今回の作品に描かれている灯台は、私の故郷にあるものです。一冊の本、遠縁の男性の随筆集を読み、そこに現れる灯台に訪れました。実はその灯台は、私が幼い頃に訪れていた場所でもあります。ともに描かれている文机と本棚類は、実際の私の作業部屋。個人的な現実を認識させてくれるポイントのような記憶や光景が、多くはないですが私にもいくつか見つけることができました。それらはどこか響き合うような部分があって、イメージを喚起させてくれたり光や空間の質感として今回の作品のモチーフに干渉している様に思えます。反復する日常とは異なる、そうした現実の認識方法。その中で描かれた作品は、私が私の時間の中から繋ぎ合わせた世界の形の断片なのです。

-制作に掛かった時間、 またどんな想いで描かれましたか

小川:描き出すに至るまでの時間もあるので、単純に何日というのは断定しにくいのですが、描き出してからはおおよそ20日ほどだったと思います。いざ描き出すと、バラバラな要素が自分という受け皿の中でひとつずつ繋がってゆく感覚がありました。初めは暗い色調だったものが段々と明るくなっていったのは、やはり灯台の性質がそうさせたのかも知れません。そうした、どこか不思議な高揚感を感じる制作となりました。

-今後の活動(展示など)の予定、目標、夢などがあれば教えて下さい

小川:予定としては、2017年の4月17日から4月29日まで、大阪の『Oギャラリーeyes』にて個展を開催します。あと希望としては生まれ故郷の美術館で個展ができたらうれしいです。

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シェル美術賞展2016
会期:2016年12月7日(水)~12月19日(月) ※13日(火)休館
時間:10:00 – 18:00(入館は17:30まで)
※9日(金)、16日(金)は夜間開館実施予定 10:00 – 20:00(入館は19:30まで)
※最終日 10:00 – 16:00(入館は15:30まで)
入場料:一般400円/大学生200円
※高校生以下、70歳以上の方、障がい者手帳等持参の方(付添の方1名含む)は無料

会場:国立新美術館[1階展示室1B]
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
tel.03-6812-9921(会期中のみ)

【シェル美術賞受賞者インタビュ-】60周年特別賞(曽谷朝絵賞)-鈴木浩之 はこちら

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