結果発表
2016/08/23 10:00

第9回 未来エレベーターコンテスト

最優秀賞

High Velo-city
池田篤士、弓場大夢(千葉大学)
High Velo-city
作品概要
自転車の持つ可能性や楽しさを拡張できる自転車専用高速エレベーター、それが「High Velo-city」である。このエレベーターが導入されるのは、自転車普及率が高く、自転車インフラの整備も進んでいるオランダのアムステルダムを中心とする7都市である。
「High Velo-city」は、地上約5mの高さに設置された高速自動運転レーンと、自転車を運ぶ役割を持つ自動走行モビリティユニットで構成され、オランダ各地に張り巡らされた自転車専用道路から進入する。このモビリティユニットは自転車の前輪が載ると作動し、乗客はそのまま時速25~30kmで運ばれていく。自転車の体重移動に反応してモビリティユニットが自動的にバランスをとってくれるので、自転車が転倒する心配はない。アムステルダム市街地からスキポール空港までの道のりなら約30分で運んでくれるだろう。レーンを降りたい時はハンドルを曲げてサイドのインターチェンジに進めばよい。その先は再び自転車専用道路につながっている。推進方法には、超伝導体と永久磁石の作用でモビリティユニットを浮遊状態にして運ぶ電磁誘導システムを採用する。また、それを運用するための電力の大部分は、オランダの強風を活かして、支柱に設けられたダリウス・サボニウス風車による風力発電によって賄われる。
審査員講評
水平に広がるオランダの大地の上を、自転車と一緒にスムーズに移動するというのは、とても爽快な体験となるでしょう。自転車に乗ることそのものが“乗って楽しい”わけですが、それをスケール大きく展開しています。エネルギー、交通、技術など、さまざまな今日の課題や成果が、見事なグラフィックのもとにまとめられていて、最優秀賞にふさわしい案と思います。
この提案で取り上げられている問題は、各都市や国でも見られるものであり、例えば、東京やロンドンではどうなるのかなど、創造を刺激します。そのように応用可能なことも、この提案の優れた点といえるでしょう。(今村創平)
受賞者コメント
私たちは千葉大学工学部デザイン学科でデザインを学ぶ仲間です。2人とも現在学部の4年生で、それぞれ専門分野が異なります。今回はお互いの専門を活かして何かできないかと考え、このコンテストに参加しました。
この提案では10年後の世界の都市における環境変化とその対応策を考えてみました。その際、私たちに楽しみを提供してくれるエコな乗り物として自転車に着目しました。私たちは自転車の可能性をさらに拡張することで、環境問題にアプローチできないかと考えました。そして何より、乗って楽しいものであることを念頭に置きながら取り組んだ結果、このような提案に結実しました。

優秀賞

karakuri
長尾浩志、宮内健太、金築一平(東京大学大学院)
karakuri
作品概要
文豪・夏目漱石の小説『坊っちゃん』の舞台として知られる愛媛県松山市。その松山の玄関口であるJR松山駅前に2025年、主人公・坊っちゃんをモデルにしてつくられた、高さ約10mの巨大エレベーター「karakuri」が登場する。歯車やカムを用いて動くからくり人形の技術はすでに江戸時代から日本に存在したが、「karakuri」はタイトルのとおり、この技術を応用してつくられる。電気を使わず、位置エネルギーを上手に利用して昇降できるため、エコ時代にふさわしいエレベーターでもある。
JR松山駅で電車から降りた乗客がお盆の上に乗ると、10人乗りのエレベーターは2分かけてゆっくりと降下していく。その間、乗客は、添乗員による松山の魅力や「karakuri」の仕組みなどの説明を聞きながら、お盆の上で記念撮影をしたり、松山名物のポンジュースや坊っちゃん団子などを試飲食したりすることができる。エレベーターが完全に降下した先で待っているのは、伊予鉄道の坊っちゃん列車である。乗客がお盆から降りると、おもりを使った仕掛けによって、お盆は再び上昇する。この「karakuri」効果によって、松山とその周辺都市に注目が集まり、観光客の増加が見込めよう。ひいては公共交通機関、飲食店、宿泊施設などの需用増加につながり、観光業の雇用促進にも役立つだろう。
審査員講評
アイデアは江戸時代のからくりを直接現代に適用するというシンプルな提案ですが、松山への来訪者を楽しませることは間違いなく、地域活性化の観点からは一定の効果が見込めそうだという点が評価されました。
一方で、巨大人形自体のデザインや、そもそもこれが来訪者から見て「坊っちゃん」とわかるかどうかなどの視覚的側面からの諸課題は残されています。また、一見してエレベーター乗降者の落下事故に対する安全考慮が見えず、屋根がないため荒天時にどうするかなど、克服すべき問題がまだあることにも注意が必要でしょう。駅の改札を新たにつくる必要も出てくるなど、実際導入するにあたってのつくり込みの部分においてさらなる創意工夫を期待しています。(谷口 守)
受賞者コメント
僕たち3人は、東京大学大学院で機械工学を専攻し、同じ研究室に所属しています。3人のうち長尾と宮内は2016年に就職するので、金築を巻き込み、最後の夏休みの自由研究という気持ちでこのコンテストに応募しました。
立案時には、まず「楽しいとは何か」を3人で話し合いました。その過程で、モノづくりが楽しいから機械工学を専攻しているのだという点に改めて気づかされました。このコンテストの過去の作品を見てみると、建築系の視点による作品が多かったので、僕たちの強みである機械系の視点で提案できたら面白いと思い、江戸時代のからくり人形にヒントを得て、この提案を考えました。

審査員賞

Remember You あなたを覚えるエスカレーター
秋山大暉、小田倉早紀(首都大学東京)
Remember You あなたを覚えるエスカレーター
作品概要
現在のエレベーター、エスカレーターの問題点を挙げるなら、機械的で温かみがなく、心が通わないという点にあり、それが移動を退屈なものにしている。そこで私たちが提案する「Remember You」では、乗る人に温かい感情を生み出すエスカレーターを目指した。
エレベーター、エスカレーターに乗っている間、人々は通常、壁面を見たり、階数表示を見たりなどして過ごしている。「Remember You」は、利用者の外見データを乗るたびに蓄積していき、利用者がエスカレーターに乗ると、壁面モニターにスライド形式で過去の外見データを表示する。これにより利用者は、エスカレーターに乗っている間、蓄積された昔の自分の姿を見て楽しめるようになる。
設置場所としては、ショッピングモールと立体駐車場から構成される5階建ての大型ショッピングセンターを想定した。それらを取り巻くようにチューブ状に設計された「Remember You」は、上方から眺めるとちょうどインフィニティ(無限大、∞)の形をしており、データを蓄積すればするほど楽しいという記号ともなっている。モニターに外見データを表示するため、通常のエスカレーターよりも電力を必要とするが、それはショッピングモールと立体駐車場の屋上に設置されたソーラーパネルによる太陽光発電で供給される。
審査員講評
エレベーターの鏡は、本来車いすやベビーカーが後ろ向きに出ないといけない時のバックミラーの役割があります。確かに、エレベーターの鏡を見て身だしなみを整える人もいますから、このような発想になることは理解できます。エスカレーターに乗っている時に、昔の自分が出てきたら面白いかもしれません。
ただ、昔の自分は笑った顔がいいのか、それとも哀しい顔がいいのか、そんなことを考えてしまいました。そんな自分の顔を考えるよりも、プライバシーのことを気にしなければ、そのエレベーターに乗ったことのある、Facebook友だちのプロフィール写真が出てくるのもいいでしょう。SNSのリアル版として、いろいろな可能性のある提案だと思います。(小川克彦)
受賞者コメント
私たちは首都大学東京システムデザイン学部のインダストリアルアートコースで工業デザインを学んでいる仲間です。2人とも学部3年生ですが、小田倉はプロダクトデザインを、秋山はカーデザインを専攻しています。今回の提案は2人で企画し、特に注力した部分に関しては、小田倉がデザインを、秋山が文章・写真を担当しました。
現在のエスカレーターを分析してみると、乗っている間、人はやることがなく、携帯や鏡を見ながら自分一人の退屈な時間を過ごしています。そこで、この提案では、エスカレーターに乗っている退屈な時間を非日常的な特別な時間に変えようと考えました。エスカレーターに以前乗った時に収集された過去の自分のデータを見たら、自分だけの世界を楽しめるのではないでしょうか。

審査員賞

シブヤヤマ ロープウェイ
吉川学志(首都大学東京大学院)
シブヤヤマ ロープウェイ
作品概要
スリバチ状の地形になっている渋谷は、そこに人とモノとが集まることで、これまでにさまざまな名前のついたユニークなストリートを生み出してきた。その渋谷では現在、2027年に向けて大規模な再開発プロジェクトが進みつつある。高層化、ペデストリアンデッキ(空中回廊)、地下広場、緑化など耳ざわりのよい言葉は、渋谷という街をどう変えてしまうのか。その時、渋谷ははたして今のようなストリートの賑わいを維持できるのだろうか。「シブヤヤマ ロープウェイ」は、渋谷の空中にロープウェイを張り巡らし、既存のストリートとは別の移動手段を設けることによって、渋谷の坂道文化の強化を図ろうという提案である。
ロープウェイは安全面を考慮し、2本のロープを用いるフニテル式を採用、2つの滑車が回転することによって運転される。人は蛇腹式に折り畳めるシートに乗って移動するが、ロープウェイが運ぶのは人だけではない。2本の可動式キャッチャーが車輪を固定させることで、車、自転車、歩行補助車など幅広い乗物を運ぶことができる。「シブヤヤマ ロープウェイ」によって地上と空中のストリートは入り乱れ、私たちはより重層的にシブヤのストリート空間を楽しめるようになるだろう。
審査員講評
混沌とした渋谷の街を上空から見てみたい。常に工事が終わらない街、歩道に車道に人と車が溢れ出ている街、スムーズに移動するのが常に困難な街。そこで空中をいくロープウェイを使って、円滑に、かつ楽しく移動できたら、街はより活性化しそうです。渋谷を訪れたことがある人ならば想像しやすいシチュエーションで提案されていた点もよかったと思います。
ただ、実際のところ、既存の施設にどのようにロープウェイを掛けるのかが課題になりますし、新たに支柱も必要になってくるでしょう、そうした提案も必要かと思われます。また、透視図によるイメージ図は、より街が混雑し、混沌としているように見えました。提出されたシートを最後まで同じ力量で線を入れるべきだと思いました。(KIKI)
受賞者コメント
僕は現在、首都大学東京大学院の修士の1年生で、建築・設計を勉強しています。なかでも未来の都市像を描くことに興味があったので、このコンテストに応募しました。
今、渋谷では大規模な再開発が進んでいます。2027年までに、駅前には巨大な高層ビルが6棟建ち、その周辺でもさまざまな高層ビルの建設が予定されています。これによって、坂の街として発展してきた渋谷のよさが失われてしまうかもしれない。そこで、渋谷をどうしたら楽しい街として残せるのかを僕なりに考えてみました。
かつて渋谷にはロープウェイがあったことが知られています。それを街全体に拡大したら渋谷を活性化できるのではないかと考え、この提案を発案しました。

審査員賞

commu-EV~お節介なエレベーターがつくるまち~
大川泰毅、星野奈月(筑波大学大学院)
commu-EV~お節介なエレベーターがつくるまち~
作品概要
東京都江東区豊洲地区は近年、マンション開発によって若い世帯が数多く移住し、人口が急激に増加した。そのため、本来は長い時間をかけて形成されるはずのコミュニティが未成熟のままという問題を抱えている。他人と関わりを持たせる、少しお節介なエレベーター「commu-EV」は、その解決策として考案された。
母親に抱かれる赤ん坊をイメージして球形にデザインしているため、利用者はそのなかで心を落ち着かせ、リラックスした気分で乗ることができる。「commu-EV」は、リニアシステムによってマンションの建物内部を垂直移動する際、利用者の情報(趣味や関心事、お気に入りの写真など)を各自のスマートフォンから抽出し、エレベーター内部にある液晶画面へと投影する。映し出された情報は、乗り合わせた人たちが会話をするためのきっかけをつくり、住民同士のつながりを促すよう働きかける。また、「commu-EV」は水平移動用の車輪を備えており、建物の外にも飛び出していく。時にオープンカフェとしておしゃべりの場を提供したり、同じ趣味を持ち合わせた人々のミーティングスペースとして使われたり、青空教室、映画館、フィットネスセンターとしても活用されたりする。
審査員講評
この作品はIoT技術を応用して情報共有することによって、共通項や同じ関心を持っている住民同士をつなげるというものです。人々が本当にそれを求めているのかは別として、技術面だけから考えると2020年頃までには実現可能になるのではないでしょうか。その点ではこの作品を評価できます。一方で、「commu-EV」という移動体がまちなかを行き来するというコンセプトについては、ビジュアルの強さも相まって、混乱を招きはしないかと感じました。例えば、計画的に新しくつくられる都市において最初からそれを見込むなら、この提案は成立するように思います。(藤田善昭)
受賞者コメント
私たちは筑波大学大学院で社会工学を専攻しています。2人とも修士の2年生で、その最後を締めくくるためにコンペに応募してみたいと思って参加しました。このコンテストを選んだ理由は、星野がKIKIさんのファンで、KIKIさんが審査員に名を連ねていたからです。
現代の社会では、近隣の人とおしゃべりする機会が減っており、極端な場合、隣りに住んでいる人が亡くなっているのに気づかないことさえあります。そこで私たちは、少し前までいた、ちょっとお節介な“おばちゃん”のようなエレベーターを考えてみました。
このエレベーターがまちに拡がると、住民同士のコミュニケーションが次々と生まれていくまちになると期待しています。その際、できるだけ既存のエレベーター技術を使い、数年先には実現可能なレベルの提案にすることに配慮しました。