総評 : 中川憲造(グラフィックデザイナー、NDCグラフィックス代表)
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せっかくいいことをしようとして、裏目に出ることがある。善意や正義感から行うことが、意に反して目指したものと逆になってしまう、なんて。よくあるでしょ、「ここに犬の糞をさせないで!」という看板が、その犬の糞よりも汚い看板だったり、「街を美しくしましょう」という垂れ幕が、街を汚していたり。また「静かにしなさい!」という声が一番うるさい騒音になったり、というように。

信号待ちアイドリングストップの審査を引き受けて、実はいちばんこのことが気掛かりだった。選ばれたシンボルマークが、街の「視覚CO2」になったらいやだなと。

だが、審査会場に並べられた応募作を眺めて、これはいい、というのを見つけたとき、このことは杞憂におわった。入賞作はどれをみても「美はチカラ」を実感させてくれた。

中でもグランプリ作は飛び抜けて造形表現がすばらしい。ステッカーやサインボードになったシンボルマークを見たドライバーは、きっと気持ち良くアイドリングをストップさせてくれそうだ。

審査員賞も、美しい造形表現のものを選ばせていただいた。車を運転する人の「心」を動かせるのは、独善的な命令や大声ではなく、気持ちのいいアピールであり、ドライバーに環境への配慮を実行させるチカラをもつのは、そのステッカーやサインボードに共感するからだと思う。

世田谷発の美しいマークが、日本全国にも拡がるよう願っている。