総評 : 田口敦子(多摩美術大学グラフィック学科教授)
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近年、日本人は多くの人々を対象とした社会性の強いコミュニケーションの場で、情報を的確に出きるだけ速く伝える目的で、グラフィックエレメント(シンボルマークやピクトグラフ)が使用されることに馴れてきました。古くから使われてきた家紋等に見られるように、私達の国は非常に洗練された造形性を伝えてきた歴史があり、今後も積極的にシンボルマークの制作が進められることと期待しています。

今回のコンペへの応募作品は大変優れた作品が数多く見られ、興味深い審査でした。テーマが「信号」「待つ」「アイドリング」「ストップ」という多くの情報を内包しなければならず、難しかったのではないかと推察します。従って応募作品に、情報をシンボル化(絵)するだけではなく、文字表記を加えた作品が多かったのも特徴でした。

グランプリの作品は、シンプルで美しく明快なフォルムを持ち、視認性の高い赤の色は、禁止の意味と信号機の赤を表し大変優れています。文字表記の助けを借りていますが、これは使われてゆく経過のなかで区民の方々に覚えていただき(学習効果)、将来は文字表記を取り除いて、伝達内容を伝えることが可能です。

準グランプリの作品は交通標識の禁止のマークと自動車の後部、排気ガスを親しみやすい表現で絵文字化することに成功しています。

佳作(武岡さん)の作品もほぼ同様の考え方で表現され、赤い円の中に表示して視覚的に強い訴求力を有しています。この2点には文字表記が組み合わされていないことから絵の情報が複雑になり、情報の読み取りが瞬時にというシンボルマークの目的に合わなかったことが惜しまれます。

佳作(森原さん)の作品は信号機を直接的に表示し、自動車の鍵穴と鍵、文字表記、そのうえ色彩も5〜6種使用し、前記の作品より更に複雑な表現ですが、情報の伝達の的確さは充分と言えます。最後に審査員賞は、情報内容に「環境」を加えた多くの作品の中から、緑の葉と鍵を組み合わせて、大変美しいフォルムと爽やかな色彩を使ってアイドリングストップを訴えた作品を選びました。