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2017/09/22 18:00

【レポート】第20回文化庁メディア芸術祭受賞展が開幕 現代を彩るアートに触れる

会場ポスターには受賞者の直筆サインが会場ポスターには受賞者の直筆サインが

メディアアートの総合展「第20回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展」が、9月16日から28日まで開催中だ。会場は東京・新宿のNTTインターコミュニケーション・センター [ICC]、東京オペラシティ アートギャラリー。開幕前日の9月15日には、内覧会と授賞式が行われた。

同祭は文化庁の主催で1997年から開催。今年は、アート/エンターテイメント/アニメーション/マンガの4部門に、世界88の国と地域から4034作品が寄せられた。開催中の受賞展では、各部門受賞作品や功労賞受賞者の功績が展示され、ワークショップ等も行われる。

主な見どころを、写真とともに紹介しよう。

受賞展の見どころ

2016年の日本を象徴する作品たち

まず見どころとして挙げられるのは、エンターテイメント部門の大賞「シン・ゴジラ」や同優秀賞「Pokemon GO」、アニメ部門の大賞「君の名は。」ブースだろう。話題を席巻し、昨年を象徴する作品たちだ。

エンターテイメント部門 優秀賞のポケモンGO。フォトスポットとして楽しめる

エンターテイメント部門 優秀賞のポケモンGO。フォトスポットとして楽しめる

君の名は。

「君の名は。」ブースでは、主題歌と共に名シーンを振り返ることができる。

ここでしか見られない作品の数々

ふだん接点のない先端的な作品を一挙にみられることが、同展の大きな特徴だ。

アート部門大賞の「Interface I」は、「相互作用する異なる系」の反応を可視化したキネティック・インスタレーションだ。

アート部門大賞「Interface I」/Ralf BAECKER

アート部門大賞の「Interface I」は、「相互作用する異なる系」の反応を可視化したキネティック・インスタレーションだ。192個のモーターに直結したガイガー=ミュラー計数管が環境放射線を感知すると、モーターがそれぞれ作動して網目状の赤い糸を細やかに動かす。ドイツ人のRalf BAECKER氏による。

作者は、システムの複雑な相互作用で赤い糸が動く様子について「コンピュータの中での複雑な計算と、結果としての秩序」をイメージしたとのことだが、社会、経済、自然といった現代社会を構築するあらゆるもののメタファーにも見える。暗闇で、赤い糸が秩序を持って繊細に動く美しさは、会場で見てはじめて実感できるだろう。

デジタルシャーマン・プロジェクト

エンターテイメント部門優秀賞「デジタルシャーマン・プロジェクト」/市原えつこ

エンターテイメント部門の優秀賞「デジタルシャーマン・プロジェクト」。内覧会では作者の市原えつこ氏が自らコンセプトを説明した。昨年、多方面で話題になった同作品だが、実物を見たことが無い方が多いのではないだろうか。同展では、作者の身体や人格をコピーしたロボットと実際に対話できる。

アート部門 新人賞「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」津田 道子

アート部門新人賞「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」/津田 道子

アート部門新人賞の「あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。」。空枠、鏡の入った枠、過去映像の流れる枠…時間軸の異なる枠(フレーム)が一つの空間で交錯する。この空間に立つと、思考の枠組みの次元が壊れるような、混乱した気分に陥る。写真中央は作者。

海外作品にも注目

同展では、海外からの応募作品が多数受賞している。日本人とは異なる色彩感覚や感性を持った作品はインスピレーションをかき立てられる。

アニメーション部門新人賞「Rebellious」/Arturo "Vonno" AMBRIZ/Roy AMBRIZ

アニメーション部門新人賞「Rebellious」/Arturo “Vonno” AMBRIZ/Roy AMBRIZ

アニメーション部門の新人賞「Rebellious」はメキシコからの出品。人形を使ったストップモーション・アニメーションだ。同展では作中に出てくる人形が展示されている。神秘的な人形はグロテスクながら愛嬌があり、精緻に作り込まれているので見応え十分。写真は、笑顔で内覧会に出席する作者Arturo “Vonno” AMBRIZ / Roy AMBRIZ 氏。

アート部門新人賞「The Wall」/Nina KURTELA

アート部門新人賞「The Wall」/Nina KURTELA

アート部門新人賞の「The Wall」。ベルリンにある美術館やギャラリーの白い壁を撮影し、写真シリーズ/書籍として発表した。書籍はページを白紙ととらえると、スケッチノートにもなりうる。展示空間に広がる白い壁を「個性と主張のあるメディア」と捉えて目を向けた作者の独特な視点を、会場で感じてみてほしい。写真左は、内覧会に来場した作者。

歴史資産ともいえる、功労賞の展示

文化庁メディア芸術祭では、日本のメディア芸術シーンの発展に貢献した方へ功労賞を贈っている。今年はアニメーションのコンテンツマネージャー飯塚正夫氏、電子機器を開発しMIDI規格の制定に貢献した梯郁太郎氏、昭和の漫画を収集し私設図書館を運営する高野行央氏、作曲家でシンセサイザー・プログラマの松竹秀樹氏が受賞した。

彼らはいずれもアートシーンにおいて裏方となる仕事をしているが、その活躍無くして現在のメディア芸術はないという方ばかりだ。たとえば飯塚氏の仕事がなければ現在のアニメーション文化はなく、梯氏がいなければカラオケもシンセサイザーも普及していなかったのではと言われる。

会場では、彼らの功績が展示されている。歴史を物語る貴重な展示だ。

機動戦士ガンダムの設定資料。飯塚氏はアニメ制作の作業量を節約する手段である「バンクシステム」を確立するととともに、アニメの設定などを資料化し体系化、資料図書室化を実現した。この仕組みは現場の作業状況を大幅に改善しただけでなく、ムック本出版などにもつながっていった。

機動戦士ガンダムの設定資料。飯塚氏はアニメ制作の作業量を節約する手段である「バンクシステム」を確立するととともに、アニメの設定などを資料化し体系化、資料図書室化を実現した。資料化の仕事はムック本の出版など、現在のアニメで定番化した企画を生み出した。

会期は9月28日(木)まで

会場には、まだまだ貴重な展示があるほか、シンポジウムやトークイベント、ワークショップなどの関連イベントが実施される。国内外の多彩なクリエイターやアーティストが集い、“時代(いま)を映す”メディア芸術作品を体験できる貴重な機会。ぜひ足を運んでみてほしい。

[第20回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品展

会期:2017年9月16日(土)~28日(木)
時間:11:00~18:00
※16(土)・17(日)・22(金)・23(土)は20:00まで

会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 、東京オペラシティ アートギャラリー ほか
入場料:無料
主催:文化庁メディア芸術祭実行委員会

http://festival.j-mediaarts.jp/

取材・構成・文:猪瀬香織(JDN)

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